会長会見
定例記者会見
【日 時】 平成17年1月24日(月)午後3時~4時
【場 所】 民放連地下ホール
1.「視聴率等のあり方に関する調査研究会」提言に対する民放連の対応について
- 日枝会長: 「視聴率等のあり方に関する調査研究会」(座長:清水英夫BPO理事長)からの提言に対する民放連の対応を発表する。
昨年5月、「視聴率等のあり方に関する調査研究会」から、視聴率調査のデジタル化対応の検討、報奨・顕彰制度の充実、視聴率調査会社の監査の充実、という3点の提言を受けた。「報奨・顕彰制度の充実」に関しては、新たに「日本放送文化大賞」を設け、本年から実施する。視聴率調査不正操作問題が明らかになった際、番組の質を調査することが可能か、といった議論や、番組の質の向上策について様々な意見があったが、良質な番組を積極的に顕彰することで、制作者が「質の高い番組を作ることにより社会で認められる」と感じ、実質的に全体の番組の質向上に繋がると考え本賞を設けることにした。
この「日本放送文化大賞」には、グランプリ、準グランプリを設け、受賞社に報奨金を贈るが、本賞の第一のポイントは、受賞した作品が、その系列で再放送されることにある。これは、従来の顕彰制度にはなかったものである。良質な番組を制作・放送しても、その番組を視聴者が見逃したり、放送時間の関係などで多くの人に観てもらえない場合もある。「日本放送文化大賞」の受賞番組の再放送で、多くの視聴者・国民の目や耳に触れれば、"民放ではこのような良質な番組を放送している"ということを分かっていただけるし、制作者もそれが励みになり、必然的に質の高い番組が多くなると考えている。表彰は民放大会の席上で行う。また、本賞の創設と同時に、設立以来長い期間が経過している「日本民間放送連盟賞」のあり方についても、今後、総務委員会で検討していくことにしている。
次に、調査研究会提言の「視聴率調査会社の監査の充実」に対しては、「視聴率調査に関わる検証会」を新たに設立することにした。調査研究会では、視聴率に関する調査会社が1社であることや調査のサンプル数の妥当性などについて意見があったが、これまでも視聴率調査問題については、日本広告主協会、日本広告業協会、民放連の3者で定期的に打合せを行ってきた。これを一歩進め、新たに「視聴率調査に関わる検証会」を立ち上げ、毎年、ビデオリサーチから実情報告を受け、これを検討したうえで検証会としての意見を伝えることとした。検証会の委員には、調査統計分野、企業倫理分野で権威ある専門家の方々にも加わっていただく。
なお、提言のうち「視聴率調査のデジタル化対応の検討」については、現在は研究段階にあり、全国のデジタル化の進捗状況をみながら、デジタル時代の視聴率調査のあり方について検討を進めていく。 - 記者: 日本放送文化大賞受賞番組の再放送の時間帯、セールス対応などは決まっているか。
- 日枝会長: 「日本放送文化大賞」の実施要領など詳細については、総務委員会の検討小委員会で検討中であり、もうしばらく時間がかかると聞いている。
- 記者: 報奨金の性格付けについて聞きたい。
- 日枝会長: 民間放送50年の歴史の中で、このような顕彰制度はなかった。本賞創設のきっかけは、「番組の質を高めたい」という考え方によるもので、これまで何年も議論されてきたが、「番組の質を数字で計るのは難しい。番組の質を高めるために何かできることないか」との思いからである。したがって、報奨金の金額が大事なのではなく、再放送することによって素晴らしい番組が国民に認知され、それによって制作者の励みになることが大事だと考える。「日本放送文化大賞」は、放送した局、協力制作会社、脚本家や出演者など制作に携わった人たち、さらには番組のスポンサーも共に表彰することにしている。このような発想で立ち上げる顕彰制度であり、報奨金は、次の良質な番組の制作のために活用していただこう、との考えから決めたものである。
- 記者: テレビとラジオで報奨金の金額がかなり違うが、どのような考えからか。
- 日枝会長: 番組制作費はテレビの方がラジオに比べ、圧倒的に多くかかるため、それに合わせて設定したものである。先ほども申しあげたように、1,000万円という報奨金の額よりも、「質の高い番組を制作するための一助に」という目的が大切なのだと思う。
2.スマトラ沖地震・津波災害に対する民放連の対応
- 日枝会長: 昨年12月に発生したスマトラ沖地震・津波災害は、時間の経過とともに被害の深刻さが増し、復興には長期を要することから、民放連では、①救援募金キャンペーンの実施、②会員全社と民放連による救援金拠出を実施することにした。
すでに災害直後から民放各社では、それぞれ独自に様々な救援キャンペーンや募金活動を行っているが、それとは別に、民間放送が一つになって、統一ロゴ、統一フレーズで、救援キャンペーンを実施することになった。「あなたの力を、アジア救援の力に。」の統一フレーズで、ウルフルズのトータス松本さんにボランティアで御出演いただいたテレビ・ラジオ用スポットを会員全社で放送する。今回の災害復興は長期化するとみられ、このような統一キャンペーンを実施することにより、視聴者の皆さんに救援の大切さを呼びかけていきたい。
3.平成17年の民放連の課題について
- 記者: 平成17年の民放連の課題とそれに対する取り組みについて聞きたい。
- 日枝会長: 何と言っても、デジタル化に向けたローカル局をバックアップすることだと思っている。デジタル放送は、既に三大広域圏でスタートしたが、それ以外の地方局の一部でもすでに前倒しで実施している。薄型テレビの売れゆきも好調のようであり、アナアナ変更も予想以上にうまく展開している。このようにデジタル化の波は大きくなっていくが、地方局にとっては大変な負担となる。これをバックアップしていくことが、今年の民放連の大きな仕事になる。
二つ目は、政府や日本経団連でも課題となっているが、デジタルコンテンツの権利に関する研究を行わなければならないと考えている。これからは地上波の放送権だけではなく、ブロードバンド、インターネットも含め、様々な権利が発生してくるだろう。したがって、これらに対する研究をしておかなければならない。放送と通信の融合によってネット社会が確立されてくると、単にコピーワンスの制御だけで完結しないと思う。新RMPの導入にとどまることなく、新しいネット社会に対応出来るようなコンテンツに対する考え方、問題の研究にも着手しなければならないと思う。
三つ目は、放送の二元体制に関する広範な議論を高めていく、ということである。
四つ目は、当然のことながら報道機関としての使命を達成するということである。報道規制にも注意しながら、質の高い番組制作を心がけるようにする、という民放の使命を常に確認していくことが必要だろう。
五つ目は、「日本放送文化大賞」の実施である。今年が第一回目となるので、これを視聴者の皆さんの間に定着させていきたいと考えている。
4.NHKに関する諸問題について
- 記者: NHKの番組編集に政治介入があったかどうか議論されているが、この騒動をどう見ているか。
- 日枝会長: 問題となっている番組を観ていない。紙面やテレビの報道で知り得た限りでは当事者の主張に相違があるが、何が真実なのか判断できない。民放連会長という立場であり、私の考えを述べるのは差し控えさせていただく。
- 記者: 一般論として、会長が考える政治的圧力や政治的介入とは、どのようなものなのか。
- 日枝会長: 本件とも関わってくるのでコメントを差し控えたい。何が政治的介入にあたるのかは、以前から繰り返されてきた議論であり、その時々で変わってくるものだと思う。
- 記者: NHK会長の任免権がない政治家から、NHK会長辞任の情報が出されている。NHKと政治の距離をどう考えるか。
- 日枝会長: 政治家の方から辞任の話が出ているといったことは知らないし、報道されている範囲のことしか分からないので、コメントするわけにはいかないだろう。
- 記者: 一般論として、放送と政治との距離は、どうあるべきと考えるか。
- 日枝会長: NHKも民間放送も、放送法に基づいて事業が行われており、放送法に規定する「政治的に公正であること」「報道は事実を曲げないですること」「意見が対立している問題は、多くの角度から論点を明らかにすること」は、最大限配慮しなければならない。これに基づいて編集、報道を行い、その結果として言論表現の自由が確保されていると、私は理解している。
- 記者: 政治家に対して番組内容を事前に説明すること自体がいけないという論調があるが、これについてはどのように考えるか。
- 日枝会長: 一般論として答えるしかないが、編集権は放送局が持っているものだ。政治に関することに限らず、これまでも様々な形でこうした議論は起こっている。報道に携わる者は、言論・報道の自由を守るために、これを自覚し、実践しなければならない。編集権が放送局にある以上、仮に外部から介入を受けても自らの判断で拒否することができるはずだ。番組についての責任は放送局にある、という毅然とした姿勢を保つことが重要であり、これは、民放もNHKも同じだと思う。
- 記者: 昨年、民放連では放送の二元体制のあり方に対して意見を出しているが、一連の不祥事も含め、NHKの動きについてはどう考えるか。
- 日枝会長: 昨年、放送計画委員会でまとめた見解には一連のNHKの不祥事に関する意見はない。もしあるとすれば、見解で、NHKの経営委員会は形骸化していると思われるので、その充実を図るべきだと申しあげた。今回、その一部が受け入れられるようであり、評価したい。その他の不祥事についてはNHKが自ら解決すべき問題であり、民放連としてコメントする問題ではないと思う。
- 記者: NHKは関連会社の整理統合は行う一方で、関連会社の副収入目標を立てている。こういった関連会社、子会社のあり方や動きについてはどう考えるか。
- 日枝会長: 常々申しあげているが、日本の放送は、受信料収入のNHKと、広告収入の民間放送が、うまくバランスを取りながら発展してきたと思う。この二元体制のバランスが崩れないように、NHKには放送法で認められた業務範囲を厳格に守っていただきたい。我が国の放送の発展のため、バランスを壊さないようNHKにも協力してほしいと思う。
- 記者: 二元体制に関する広範な議論を高めていくため、NHK首脳と民放連首脳が直接話し合ってはどうか、という意見があるがどうか。
- 日枝会長: 民放連としての統一の見解は、昨年発表した「デジタル時代における放送の二元体制」などがあるが、総務省の「デジタル化の進展と放送政策に関する調査研究会」にも同様の見解を述べている。また、民放連首脳とNHK首脳とは折に触れ、日本の放送のあり方について議論している。総務省「デジタル化の進展と放送政策に関する調査研究会」で検討がされているが、必要なら当事者同士でも議論すればよいのではないか。
- 記者: NHKの海老沢会長が辞任を示唆されたが、これについてはどうか。
- 日枝会長: 放送法27条に任命権、29条に罷免権が定められており、これは経営委員会が行うことであり、この点についての発言は差し控える。経営委員会の動向を見ていきたい。
- 記者: 一般論として、民放のパートナーであるNHKトップは、どういう人物が望ましいか。
- 日枝会長: 二元体制を守っていただき、放送人として日本の放送を発展させていただく方が望ましいと私は思っている。公共放送として二元体制の維持発展を、バランスを持ってやっていける、そういうリーダーシップを持った方が就任されることが望ましいと思う。
5.株式保有問題について
- 記者: 子会社の株保有などが問題になっているが、民放連としては、会員各社に何かアクションを起こしているか。
- 日枝会長: 前回の会見でも質問があり、お答えしたが、放送局にとってコンプライアンスは大変重要だ。法治国家である以上、マスメディア集中排除原則の是非を議論する前にこれを順守するのは当然である。もし制限を超えているのであれば直ちに是正すべきだ、と申し上げた。総務省は1月19日、民放(民放連加盟社)の50社で制限オーバーがあり、うち11社では既に是正を終えている、と発表した。この問題は、それぞれの会社の固有の事情や歴史的背景から現在の資本構成となったものだろう。しかし、民間放送は公共的な事業であり、1月20日の理事会でも、「制限をオーバーしている事実があれば、可及的速やかに是正してほしい」と、会長の見解を述べ、了承されている。
- 記者: 民放連としては、譲渡が進まない社に対して何かアクションを起こす予定はあるか。
- 日枝会長: 民放連には、各社に対して調査を行う権限や、是正をさせる権限はない。会員社には法令を遵守するよう求めていきたい。そこから先は行政が対応されることと思う。
6.その他
- 記者: デジタルコンテンツの権利問題は、既に日本経団連や文化庁の研究会などで取り組んでいるが、これらとの連携は考えているのか。
- 日枝会長: その研究会等には、民放連からも委員が参加し、連携して対処している。
- 記者: 楽天がブロードバンドで野球中継を流すという話があるが、どう考えるか。
- 日枝会長: 楽天はインターネットに関わる事業を本業とされており、ビジネスの多様化の一環だろうと思う。我々のラジオ・テレビの放送に加え、そうしたインターネットを使った伝達等が登場し、様々な方法で野球を盛り上げることは良いことではないかと思う。
- 記者: インターネットで、様々なアングルから中継する手法が広まったとすると、今後、広告収入等にどのような影響が及ぶと思うか。
- 日枝会長: 今までテレビでは、地上波、BS、CSでプロ野球を生放送してきたが、今年から新たなメディアが加わって互いに刺激し合いプロ野球が盛り上がってくれば、地上波の広告収入にも、むしろ良い影響を与えると思う。プロ野球は、放送にとって大事なコンテンツであり、良い競争相手が出てきたと考える。
- 記者: ラジオ局では地下鉄でもラジオが聞けるよう研究しているようだが、民放連として、総務省などに働きかけることを考えているか。
- 日枝会長: この問題はラジオの生命線でもあり、民放連としても重点課題として取り組んでいきたい。総務省に対しても、こうした議論が行われていることを伝え、協力を求めている。
以上
問い合わせ先:民放連・会長室