会長会見
定例記者会見
【日 時】 平成17年5月26日(木)午後3時40分~4時25分
【場 所】 赤坂プリンスホテル ロイヤルホール
1.「視聴率調査に関わる検証会」の検証結果報告について
- 日枝会長:「視聴率調査に関わる検証会」の検証結果について発表する。平成15年秋に明らかになった視聴率調査不正操作問題に、的確かつ抜本的な対応策を講じるため、民放連が外部有識者を中心とする「視聴率等のあり方に関する調査研究会」を設置し、率直な意見を求めた結果、同調査研究会から、① 視聴率調査のデジタル化対応検討、② 番組顕彰制度の充実、③ 視聴率調査会社の監査の充実、の3点の提言をいただいた。このうち、視聴率調査会社の監査の充実に関しては、視聴率調査を行っているのがビデオリサーチ社1社であることから、今年1月に、日本広告主協会、日本広告業協会と共同で、外部有識者も加わった「視聴率調査に関わる検証会」を設立し、ビデオリサーチ社から、具体的なデータ等に基づく視聴率調査の現状報告を受け、検証を進めてきた。このほど、その検証結果をビデオリサーチ社にフィードバックしたので、本日皆さまにその内容を
資料とともにご報告することにした。
ビデオリサーチ社からはいろいろなデータや参考資料を提出してもらい議論を進めてきたが、検証会に加わっていただいた有識者委員からも、ビデオリサーチ社が前向きに対応してくれたとの評価をいただいている。
40年近い視聴率調査の歴史のなかでも、こうした検証は初めての試みであるので、今回1回の作業だけで終わるものではなく、今年秋に行う次回の検証会以降も詳細な討議を重ねて行くことを確認している。ビデオリサーチ社は、業界共通の指標であり、かつ国民的関心の高い視聴率データを扱う唯一の企業として、コンプライアンスはもとより、その社会的責任や信頼性の確保についてフォローアップしていくのが、この検証会の目的である。
2.「日本放送文化大賞」の準備状況について
- 記者:「日本放送文化大賞」の準備の現状は?
- 日枝会長:この「日本放送文化大賞」も、視聴率調査の不正操作問題を契機とした民放連の取り組みの一つである。良質な番組を作り、多くの方に見ていただく。それが結果として視聴質の向上につながる、との発想である。6月から8月にかけて、会員各社からの応募番組を対象に全国7地区の地区審査が始まる。地区審査を経て推薦された番組を中央審査で決定し、初めてのグランプリ・準グランプリの発表と表彰は、11月2日(水)に大阪市で開催する「第53回・民間放送全国大会」の式典席上で行う。グランプリ受賞番組は必ず全国で見ていただけるように再放送する。番組ジャンルを問わず、視聴者、リスナーの視点による素晴らしい番組を顕彰していくことにより、次の良質な番組づくりへのインセンティブがはたらく。この賞により日本の放送文化を高めることになれば、「視聴率等のあり方に関する調査研究会」から頂いた提言に報いることができると思う。民放各社の番組審議会委員、広告関係者とともに、新聞・通信社の記者の皆さんにも審査員に加わっていただくことになっているので、ご協力をよろしくお願いしたい。
- 記者: NHKとの関係の中で、どのような位置づけとなるのか。一緒に運営していくことなどは検討していないのか?
- 日枝会長:民放でこのような顕彰を始めることは申しあげようと思っている。NHKと一緒に運営するのもひとつの考え方だが、NHKは既に長年にわたり取り組んでこられたし、ほかにも芸術祭やギャラクシー賞などの番組顕彰制度がある。日本放送文化大賞は視聴率不正操作問題をきっかけとして創設するものだが、よい番組を顕彰する様々な賞があってもいいのではないかと思う。
3.テレビCMの価値向上対策について
- 記者:デジタル・ビデオ・レコーダーが急速に普及し、視聴者がCMを飛ばして視聴することが多いということで、民放連でも対応を検討しているとのことだが、どのような状況か。
- 日枝会長:民放連では、営業委員会が中心となって、テレビCMそのものの有用性をアピールするキャンペーンを展開することを本日の理事会で決定した。日本で初めてテレビCMが放送されたのが、昭和28年8月28日であったことに因み、8月28日を「テレビCMの日」と定めて、キャンペーン活動を盛り上げていくことにしている。CMは日常生活に欠かせない情報源になっているが、そのことを視聴者にきちんと伝え、理解を得ることが大切なのではないかと考えている。技術が進歩するなかで、デジタル・ビデオ・レコーダーにスキップ機能がつくのを絶対に認めない、というわけにはいかないだろう。ただ、そのデジタル・ビデオ・レコーダーもCMを放送しないと売れないのが事実ではないだろうか。昨今、CMに出演して人気が出るタレントさんも大勢いるし、CMにはそれだけの価値がある。その価値がさらに高まるようにPRしていきたい。
4.外資の間接支配に関する検討について
- 記者:外資が日本法人を経由して間接的に民放に出資するいわゆる“間接支配”規制に関する動きや民放連の取組みは?
- 日枝会長:3月の会見で説明したとおり、民放連では、「株式等経営戦略検討プロジェクト」で検討してきた。今までは外資が放送局に直接出資できる比率を20%以内に規制していたものが、今国会に提出されている「電波法及び放送法の一部を改正する法律案」では、外資が日本法人を経由して間接的に放送局に出資している比率も加えて20%以内とする“間接支配”の概念を追加することになっている。規制対象とすべき議決権割合等の具体的な数字は、今後明らかになる省令に委ねられているので、注意深く見守って行きたい。
5.デジタル放送について
- 記者:総務省から、BS放送の第9チャンネルのデジタル化に伴う関係制度を整備する案がでているが、民放連の考え方は?
- 日枝会長:視聴可能世帯数1,000万世帯の大台が間近となったところだが、BS放送各社ともその経営には相変わらず厳しいものがある。ここまでBS放送の普及に努力してきた放送事業者の意見も充分聞いていただきたい、と総務省に申しあげているところだ。
- 記者:総務省から地上デジタルラジオ放送を実現するための構想が公表されたが、これについての民放連の考えは?
- 日枝会長: 昨年9月に設けられた総務省の「デジタル時代のラジオ放送の将来像に関する懇談会」は、民放関係者も参加し精力的な検討がなされ、5月19日に最終会合を開催、報告書案が公表された。このデジタルラジオは、当面、NHKのほか全国サービスの民間事業者1社に免許され、2006年に東京・大阪、2008年には札幌などの主要都市、2011年からは全国でもサービスが開始される構想になっている。1波で多チャンネルのラジオ放送番組、データ放送を行うことができ、テレビのデジタル移行が完了する2011年以降には、追加的に、全国サービスを行う最大2つの民放と、ローカルサービスを行う事業者の参入を認めるものである。ラジオ各社の意見は、今のラジオ社がデジタルへの参入を希望する場合には優先的に配慮していただきたい、チャンネルプランも早く示していただきたい、という点に尽きる。地方のラジオ局は、これにより大変影響を受けることになるし、ラジオ社の厳しい経営環境も理解したうえでこれらの施策を決めて欲しいというのが、率直な私の考えである。民放連では、ラジオ委員会で細部を検討しているところだ。
- 記者:NHKは状況を見極めたいとの意向のようだが、来年スタートするのであれば、NHKと同時にスタートすることが望ましいと考えるか?
- 日枝会長: 具体的には今後、ラジオ委員会で議論していくことになる。
- 記者:NHKを含むキー局各社が、3月に新東京タワーの候補地に関する中間報告を発表して2ヶ月が経過したが、現状と今後の検討の見通しは?
- 日枝会長:在京局の問題であり、民放連会長としてはお答えしにくいが、現在、10数箇所の候補地を有識者のご意見を伺いながら2箇所に絞って、民放・NHKで検討を続けているところだ。その結果は未だ聞いていない。
6.JR福知山線脱線事故における報道取材について
- 記者:JR福知山線脱線事故の発生から1ヶ月が経過した。この間の報道取材に関して検証という意味で感想を聞きたい。
- 日枝会長:まだ全体を総括するには早いと思うが、大阪の局では、東京・名古屋等からの応援の取材班にも民放連の「報道指針」を徹底するなどの配慮を行い、集団的過熱取材とならないよう注意しつつ、節度ある取材に努めたと聞いている。民放連では、昨日(5月25日)開催の放送基準審議会でこの取材・報道に関して議論が行われたと聞いているが、そうした議論などを踏まえて、今後の報道指針に反映させていくことになろう。
7.スポーツ放送について
- 記者:2006年W杯サッカー・ドイツ大会の放送権は決まったか?
- 日枝会長:2006年W杯サッカー・ドイツ大会については、2002年の日韓大会同様、民放各社とNHKとが一緒になってJCとしての放送権交渉を進めているが、権利内容の詳細は未だ確定していない。現在申しあげられることは、①地上波で40試合(民放・NHK各20試合)の放送を予定していること、②衛星放送で全64試合の放送を予定していること、③詳細については話し合いを続けていること、などである。放送権料については守秘義務があるのでご容赦いただきたい。一般論でいえば、国際的なスポーツ大会の価値が上がれば、放送権料についても常識の範囲で上がっていくものだと思う。何よりも、日本チームには予選を突破してもらいたい。
- 記者:北京オリンピック以降もJCで対応していくのか。アメリカでは単独の放送局が放送権を得ているが?
- 日枝会長:放送権料の異常な高騰を避けるためにJCを導入した経緯もあり、今のところJCで対応していくことに異議はないと思う。独占放送がされているアメリカとは市場規模など事情が違う面もある。
- 記者:プロ野球改革が注目されているが、メディアとしてどう捉えているか?
- 日枝会長:プロ野球界は新たなシーズンに入り、球界をあげて新しい取組みや話題づくりが行われている。5月、6月に行われているセ・パ交流試合もその一つだろう。いつも申し上げている通り、プロ野球は放送にとって大事なソフトだと思う。面白い試合を見せてもらえれば話題になるし、そうなれば見る人もまた増えていくと思う。
8.その他
- 記者:放送局という公共性の強い企業にとっての株式上場の意義等についてどう考えるか?
- 日枝会長:民放連の加盟社のなかで上場している社は非常に少ないので、一般論としてもお答えしにくいことだが、上場するということは、それにより資金調達をして企業価値を高めることである。それだけ透明性や情報の公開性をより高めていくことは当然である。聞くところでは、アメリカではすでに20年ほど前に敵対的買収の時代は終わっており、今は企業価値を高めるために行うM&Aが多いとのことだ。本来のM&Aはそういうものなのだと思う。日本では、敵対的な買収に対する防衛策を講じる企業が出てきているが、企業は誰のものかと言えば、もちろん株主のものではあるが、それだけではなくステークホルダー、つまり従業員、顧客、地域社会、そして我々で言えば視聴者のものでもある。このために公共性という責務が我々に課せられ、放送法等で規律され、今、外資による間接支配の問題も議論されている。したがって会社は単に株主だけのものだと断じてしまっていいのか、果たしてそうなのだろうか、と私は考えている。
- 記者:放送と通信の融合の議論のなかで、「放送の公共性」という言葉が多く語られたが、民放連として放送の公共性を議論し、アピールしていく企画はないのか?
- 日枝会長:「放送の公共性」は、放送の自主・自律を守っていく上で大事な要件だと思う。私は「国民の知る権利に応えるために、言論表現の自由を堅持し、放送は自らそれに応えていくべき」と申し上げている。しかし、もし放送が国民の信頼を失い、視聴者から「放送に知らせてもらわなくてもいい」と言われてしまう事態になれば、放送内容に公権力が介入してくる恐れが生じ、非常に懸念すべき状況になると思う。
- 記者:放送の「公共性」とは単に報道だけではなく、健全な娯楽にも十分「公共性」があるはずだが、民放連はもっとアピールしていくべきではないか?
- 日枝会長:確かに「公共性」というと、報道番組や、放送の持つライフライン機能がまず思い浮かぶが、娯楽番組にも公共性がある。人々の心に感動を与える素晴らしいドラマ、落語や漫才のような日本の文化・芸能の伝え手としても、放送は機能している。ただし、内容が行き過ぎて皆様からお叱りを受けた場合には、真摯に反省し改めていくことが、番組の質を高めていくことになると思う。「放送の公共性」については、幅広くご意見を伺いながら、ぜひ我々としても議論を深めていきたい。
- 記者:お年寄りの視聴時間が増え、特に広告主が一番のターゲットにしてきた若い女性の視聴者層が減ってきているとのデータもあるようだが?
- 日枝会長:当然ながら、お年寄りだから消費に結びつかないということはないのではないか。確かに「お金を持っている年代」と「お金を使いたい年代」は違うし、高齢者がお持ちの「財」をどのように世の中で活かしていくかは国の政策課題にもなっている。ただ放送局としては、若い人向けの番組だけを作っているわけではなく、ご高齢の方に向けた番組も増えていると思う。年齢の高い方のほうがより多くテレビをご覧になっているというデータがあったとしても、決して悲観するようなことではないはずだ。
以上
問い合わせ先:民放連・会長室