会長会見
定例記者会見
【日 時】 平成17年7月21日(木) 午後4時~5時
【場 所】 赤坂プリンスホテル ロイヤルホール
1.日本放送文化大賞について
- 日枝会長:日本放送文化大賞の進捗状況について説明する。5月の会見でも申しあげたが、日本放送文化大賞は、各社の番組審議会委員、新聞社・通信社の記者、広告関係者に審査員をお願いして、視聴者の目線に立って、この一年間に一番感銘を与えた番組を顕彰しようというものである。視聴率不正操作問題に端を発して、民放連が設置した「視聴率等のあり方に関する調査研究会」でも、視聴質が話題になった。視聴質を計るのは非常に難しいけれども、よい番組を表彰・顕彰することで、それが制作者の励みとなり、視聴者・国民に感動を与える次の作品が作られるようになる。それによって自然に番組の質が上がっていく方向になるということで、研究会の3つの提言の中の1つとして、「番組顕彰制度の充実」が入った。これを受けて、日本放送文化大賞では、番組ジャンルを問わずに、テレビ、ラジオという区分の中で、グランプリと準グランプリを贈ることにした。この賞のもう一つの大きな狙いは、全国向けに再放送をすることである。いくらよい作品であっても、放送を見なかった方々もいらっしゃるわけで、 日本放送文化大賞の受賞が話題となり、記者の皆さんにも評価していただければ、視聴者の皆さんもその番組を見たいということになるだろう。再放送でもう一度見ていただけることがこの賞の大きな特長であり、今までとは違うところだ。初めての受賞番組は、11月2日(水)に、大阪市で開催する「第53回民間放送全国大会」の式典で発表し、表彰することにしている。
2.DVDレコーダーの普及とその影響等について
- 記者:先日、ある研究機関から、デジタルビデオレコーダーが普及し視聴者がCMを飛ばして視聴することによって、「広告費に相当の損失が生じている」との試算が公表されたが、民放連としての対応は。
- 日枝会長:色々な研究機関がさまざまな意見を出すということは、それだけテレビが世間から注目されているということだろう。さまざまな予測があるようだが、民放連としては、率直に検討していくことが当然の使命と考えている。ただ、ご指摘の研究機関の試算は、「ハードディスクを持っている方々は、テレビをリアルタイムでは一切見ない」ということを前提にして、損失が生じている、としているようだが、全ての番組をいったん録画してから見るとは通常考えられず、前提が実態と違うのではないか、というのが、私の率直な意見である。また、その後、別の研究機関が「ハードディスクレコーダー所有者のリアルタイム視聴時間には大きな変化はなく、損失につながらない」とする調査結果を公表している。テレビに従事している人間としては、色々な意見を素直に伺いながら、今後どうなるのか、我々はどう対応していくのか、考える材料にすべきだと思う。民放連としても耳を傾けつつ、CMの情報が視聴者にとっていかに有益か、議論をしているところだ。
- 記者:民放連で、CMのキャンペーンを始めると聞いているが、その概要は。
- 日枝会長:前回の会見で申しあげたとおり、CMは視聴者にとって有用な生活情報だ。その役割を改めてご理解いただくため、8月1日から、「CMのCMキャンペーン」を実施する。CM情報は生活に欠かせないものになっており、広告主ならびに視聴者の皆さんのためになるCMであることが、放送メディアの発展につながり、商品価値や広告主の企業イメージを高めるためにも大事ではないかと思う。そうしたことを改めて考えるきっかけとしていただくためのキャンペーンである。
- 記者:デジタル化時代の視聴率調査についてどのように検討されているのか。
- 日枝会長:デジタル放送における視聴率調査のあり方については、「視聴率等のあり方に関する調査研究会」の答申でも、今後の検討事項ということになっている。調査会の検討は、地上波テレビのデジタル放送が始まれば、調査のあり方が変わってくるのではないか、ということが前提であった。その後、実際に放送が始まったが、デジタルテレビ放送においては、標準画質の番組を3つ同時に放送することや、携帯端末向けの1セグ放送も可能となるので、どのように調査するのかも含めて、多角的な検討に取り組んでいるところだ。
3.放送事業者のインターネット配信事業展開について
- 記者:テレビ番組のネット配信が具体化する方向になってきている。課題も多いと思うが、民放連会長としてネット配信についてどう考えているか。
- 日枝会長:テレビ番組をはじめ、コンテンツをネット配信することが、国家的な課題、国民的な関心となり、色々なところで議論になっている。一部に「放送事業者は配信に消極的」とする声もあるようだが、実際はそうではない。まだ権利処理の課題は大きいが、新しいビジネスとしてネット配信を事業化する動きも具体化してきている。どのようなビジネスモデルを作るかは、各社が個別に判断することだが、今後、民放連全体としてクリアすべき問題が出てきた場合は、取り組んでいきたい。
- 記者:日本経団連で権利処理のシステム作りを進めるとの動きもあるが、民放連として権利処理のフォーマット作りを手がける考えは。
- 日枝会長:番組にかかわる権利処理に関しては、社によって取り組みに差があったようだが、だんだん収斂してきたと思う。(「放送事業者は番組配信に消極的」などとする声については)実は放送事業者も権利の「利用者」であって、権利者の皆さんから放送の許諾をいただいて番組を作っている。こうした現実の仕組みが次第に知られるようになってきた。そして番組の放送後の利用に際しての権利処理のあり方が話題になっている。権利管理の窓口には、「権利所在情報の管理」と「権利処理」の2つの機能があるが、日本経団連には、コンテンツ関連業界・在京民放等が参加しているので、権利者の皆さんと話し合いの場を持つことができると思う。放送番組はヒットして初めて「コンテンツ」となり、コンテンツになる瞬間が「商品」となる瞬間である。番組が「商品」になったときの権利処理のあり方について、これから積極的に議論が進んでいくだろう。放送事業者から、今後新しいビジネスモデルが出てくるのではないかという予感がする。
- 記者:地方局はドラマやバラエティーを作っておらず、ネット配信には乗り出しにくいのではないか。
- 日枝会長:地域情報のネット配信を手がけるローカル局も出てきている。あるいは、例えば、知床の世界遺産は、地元局にとっては一つの財産となり、それをもとにDVD化やネット配信することもあるだろう。大作映画やドラマだけではなく、そうしたコンテンツで収入を得ることも考えられる時代になってきたと思う。
4.地上デジタル放送の推進について
- 記者:今年度の後半からは、相次いで地方局での地上デジタルテレビ放送の開局が予定されているが、準備の進捗状況は。
- 日枝会長:順調に進んでいる。総務省をはじめ関係者も同じだと思う。いよいよ来年、全国の親局で放送を開始するが、いわば最終コーナーを回り始めたところで、最後の色々な問題も出てくるかと思う。今は、2011年のアナログ波停止に向けて、デジタル放送用中継局のロードマップを作っているところだ。民放事業者としては、場合によっては公的支援もお願いしながら自力で中継局を建て、2011年にはデジタルに完全移行したい考えに変わりない。ただ、行政・政治の問題としては、2011年にテレビが映らない地域が僅かでもあると影響が大きいため、光ファイバー経由で視聴できないか、衛星で再送信してはどうか、と、念には念を入れて検討しているようだ。我々もこれに協力していきたいと思っている。
- 記者:デジタルテレビ放送を拡大するにあたり、地方局の費用負担が課題と言われていたが、現状はどうか。
- 日枝会長:これだけの国家的なプロジェクトとしてスタートしたのだから、民放事業者としても自力で努力するのが基本だと思う。放送をあまねく行き届かせるということは、法律で我々に義務付けられている。ただ、今まで50年かけて普及させてきたのを、デジタルでは今後6年間でやろうというのだから、地方局には大変厳しい話だ。この、「2011年まで」という条件があるゆえに、公的支援をお願いしたい、と申しあげている。
- 記者:総務省が地上デジタルテレビ放送を衛星やIPで再送信する実証実験を行い、実用化を目指すとなると、地方局としては、中継局は不要として、建設にブレーキがかかるのではないのか。また、IPで送ることができるのであれば、テレビのデジタル化自体の意味が問われることにならないのか。
- 日枝会長:衛星やIPによる伝送はあくまでも補完的手段なので、ご指摘のような状況にはならない。(アナログ停波までに)一部の中継局の建設が間に合わないということがあれば、その補完として、例えば光ファイバーを利用できないか、ということであって、放送と光ファイバーによる伝送は基本的に違うものだ。アナログ波を止めたとき、テレビが映らない地域が少しでもあってはならない。そこで、光ファイバーで番組を送れるのかどうか、予め実験し確認しておこう、ということだろう。むろん、まずは自力で中継局を設置するのが前提であり、そのために場合によっては公的支援もお願いしたい考えに変わりはない。
- 記者:光や衛星による伝送技術が確立されれば、中継局に投資しなくてもよいことになるのか。
- 日枝会長:総務省の計画では、光ファイバー経由でもハイビジョンクラスの画像を見られるものを考えているようだが、放送に代わるものにはなり得ない。一例だが、地震など大災害のときでも、放送は電波で確実に届けられなければならない。テレビは、開局以来50年かけて全国であまねく見られるようにしてきたが、デジタル放送では今後6年間で全国に行き届かせるよう求められている。光ファイバーや衛星は、2011年のアナログ放送終了時に、ごく一部でもテレビを見られない地域がないよう、予備の手段として考えているものだ。
- 記者:受信機の普及状況や国民の認知度を考えると、2011年にアナログ波を本当に止められるのか心配があるが。
- 日枝会長:実行するというのが国の方針であり、我々も全力を挙げて実現するという気持ちでやっている。
- 記者:その思いは地方局も同じか。各社の足並みは揃っているか。
- 日枝会長:そう思う。地域によりデジタル放送が受信できないとなると、国民の間に情報格差が生じてしまう。広くあまねく全国一律に、というのが国の方針だと思う。
- 記者:衛星やIPでデジタルソフトをデリバリーすることになると、県域放送の充実を標榜したデジタル化の意義が薄らぐのではないか。
- 日枝会長:総務省等は、放送のエリアと同じ県域の視聴者にIPを利用して番組を届けることができるか検証するのであり、同時再送信が前提と考えている。衛星利用についても、技術的に難しい面もあるようだが、県域の再送信が前提である。ただ、中継局を建設した方が低コストになる可能性もあるわけで、今のうちに検討しておこうというのが総務省の考えだろう。
- 記者:1セグ放送が始まることになっているが、具体的に端末がどのように出てくるのかといったことや普及の仕方など、メーカーとはどのような話をしているのか。
- 日枝会長:昨年、映像の圧縮方式の一つであるAVC/H.264方式を利用することが決まり、利用に当たっての特許管理団体との協議や、携帯端末向けにふさわしい放送サービスの内容の検討などが進んでいる。来年の春までには放送が開始できるのではないか思う。放送サービスの内容や利点が具体的に出てくれば、メーカーの皆さんには力があるので、すぐに受信機器が市場に投入され、端末の普及が遅れることはないと思う。
- 記者:デジタルラジオの事業会社の設立の話も出ているが、チャンネルプランを含めた今後のスケジュールはどのような状況になっているのか。
- 日枝会長:民放連としても、早くチャンネルプランを出していただきたいと要望しており、税制支援、マスメディア集中排除原則の問題、NHKとの関係など課題についても、それぞれ行政に対応をお願いしている。事業化のスケジュールについては、東京のラジオ社が中心となって出資して、とりあえず2006年から東京と大阪で放送を開始して、2008年には札幌・仙台・静岡・名古屋・広島・福岡で始め、2011年にアナログテレビ゙放送が終わったところで、全国でスタートさせたいと聞いている。
5.その他
- 記者:政府の「規制改革・民間開放推進会議」で、NHKのスクランブル化と、民放は新規参入を含めもう少し競争を導入してはどうかなど検討するとのことだが、見解を聞きたい。
- 日枝会長:「規制改革・民間開放推進会議」の中間取りまとめは7月29日に発表されるようなので、それを見てから意見を述べた方が良いと思うが、NHKは橋本会長をはじめ新しい執行部の方々で、受信料について国民の理解を得て、受信料で経営ができるようにしていくことを望みたい。以前から申しあげているように、日本の放送制度は世界に誇れるバランスの取れた併存体制のもとで発展してきた。受信料によるNHKの経営体制が崩れれば、我々にも大きな問題になるばかりでなく、番組内容にも様々な影響が出てくる。民営化、スクランブル化、罰則規定と、色々な意見があるが、精神としては、民放とNHKが共存共栄し、世界に誇れるバランスの取れた放送制度を維持することが視聴者の利益であると思う。
民放に対する意見についても、本来なら報告が出たところでコメントすべきと思うが、私は、他の先進国と比べても、日本の放送にはかなりの競争があると思っている。地上波は5系列しかない、とする一部の声もあるが、現在はBS放送もあり、数百チャンネルにも及ぶCS放送もある。いずれにせよ、日本の放送を健全に発展させていくことが大切なのであり、中間取りまとめが出たところで意見を述べさせていただきたいと思っている。 - 記者:民放連としてメディアリテラシーの入門書を出したが、そのような取り組みの意義をどのように考えるのか。
- 日枝会長:青少年と放送問題に関する対応の一環として、今回、東京大学のメルプロジェクトと共同で、メディアリテラシーの入門書を出版した。視聴者の皆さんには、放送を批評しながら見ていただき、放送事業者にとって手ごわい視聴者になっていただくことが、番組の質の向上に繋がると思う。私が一番懸念していることは、放送が視聴者から遠い存在になり、信用されなくなることだ。前回の会見の際、国民が皆で楽しめるバラエティーや音楽の番組にも十分な公共性がある、と発言された記者がおられたが、私も全くその通りだと思う。「手ごわい受け手」がいることで送り手も育てられ、より確かな信頼関係を築いて行けると確信している。この取り組みには、そうした大事な意義があると思っている。
- 記者:BSデジタル放送が始まってから今年の暮れで満5年になる。当初の「1000日1000万世帯」との普及目標から遅れている現状について、どう考えているか。
- 日枝会長:私も1000日1000万台と言った当時の責任者の一人であるが、普及のためのアピールとして申しあげた面もあった。受信機の値段が高いとか、見たい番組が無いとか、色々と言われているが、いずれも一理ある、とも言えよう。1000万台を超えれば自立した「メディア」になるきっかけを掴むだろうし、よい番組も出てくると思う。民放の場合には、キー局とローカル局など色々な立場があるが、私は、マスメディア集中排除原則をもう少し緩めれば、番組の制作や編成、営業の面でやりやすくなると思っている。楽観はしていないが、1000万台を超えて、3波共用受信機の値段がさらに下がれば、メディアごとの棲み分けもできてくるのではという気がしている。
- 記者:民放系BSには、新しいメディアを開発しよう、という覇気というか、発信力が見えなくなった気がする。お金の問題を知恵と工夫で補うことが出来るかが勝負であり、もっと規制緩和すれば元気が出る、といえるのだろうか。
- 日枝会長:企業である以上、収益が上がれば間違いなく元気が出る。逆に収益が低く、赤字が出れば色々なことにストップがかかる。新しいメディアや新しい産業はみなそうだろうと思う。だから今、1000万台超えを目前にして真剣に頑張ってやっている。
- 記者:放送人の倫理についてどのように考えているのか。
- 日枝会長:放送は注目されるメディアである分、自らの身を正すことは当然のことであり、視聴者・国民から、常に注目されているという意識を持たなくてはいけない。それだけ視聴者・国民に対する影響度も高いということであるから、出演者は発言ひとつについても責任感を持たなくてはいけないと感じている。
以上