会長会見
定例記者会見
【日 時】 平成18年3月9日(木) 午後4時~4時50分
【場 所】 民放連地下ホール
1.3年間を振り返って
- 記者:民放連会長の在任期間を振り返っての感想について。
- 日枝会長:民放連会長に就任した平成15年は、民放テレビが放送を開始してからちょうど50年目にあたり、民放事業者にとって大きな節目の年であった。地上テレビ放送のデジタル化のため、アナログ周波数変更対策を具体的に進めている時期でもあり、デジタル化をめぐる難しい問題があるなか、“必ずやり遂げなければならない”という緊張感をもって民放連会長に就任した。就任時の会見では、“放送は大衆に最も身近なメディアであり、その放送をデジタル化するという大変革を円滑に進めることが、私の第一の使命である”と申しあげたと記憶している。また、“放送は時に、社会の批判を受けることがあってもそれを謙虚に受け止めて、ジャーナリズムとエンターテインメントという二本柱のもと放送文化を育み、今後も視聴者の信頼を得ていきたい”とも申しあげたと思う。その年の12月1日には、三大都市圏で地上デジタル放送が開始され、小泉総理大臣が“日本を世界に冠たるIT先進国にするため、国策として地上波デジタルに全力をあげて取り組む”といった主旨のことを述べられたのを、つい最近のことのように思い出す。平成16年4月に、民放連会長に再任されたときの会見では、“放送のデジタル化はローカル各局には大きな負担となるが、地域住民に情報格差を生じないよう、会員各社は努力して自律的に取り組んでいただきたい。放送事業者の自助努力だけではどうしてもできない部分は、国や地方自治体のご支援をいただきながら、基幹放送である地上放送のデジタル化を成し遂げたい”と申しあげた。また、放送と通信の連携については、“放送には、文化の担い手の側面と産業としての側面があり、その兼ね合いのなかで、民間放送として、どのように放送文化の向上に尽くすことできるかが重要なテーマになるだろう”と申しあげたが、その後、連携をめぐる議論はそうした形で進んできたと実感している。またその年、一部の民放局で、マスメディア集中排除原則に違反する出資比率となっている事例が明らかになり、民放連からも各社に対し、その解消をお願いした。平成15年秋に起こった視聴率調査をめぐる問題をきっかけに、放送番組の質の向上が社会的なテーマになるなかで、民放連としても、「視聴率等のあり方に関する調査研究会」を組織し、私から番組向上機構〔BPO〕の清水英夫理事長に座長就任をお願いして、視聴率のあり方、放送番組の質の向上についてご検討いただいた。清水座長から頂戴した貴重な「提言」の一つとして「報奨・顕彰制度の充実」があり、これを具体的な形にするため、民放連では、『日本放送文化大賞』を創設し、昨年11月の民放大会で、初めてグランプリ番組、準グランプリ番組の表彰を行った。また、NHK内部での不祥事が発端となって、それが放送界全体をめぐる議論となり、放送と通信の連携や、NHKのあり方について議論されている。さらに、その間、インターネット関連事業者による放送会社に対する敵対的買収問題があり、“会社は誰のものか”とか “放送の公共性とは何か”といった問題が、さまざまなところで議論された。そして今、国民・視聴者に最も身近なメディアであるテレビの未来像も議論の対象になっている。私がお願いしたいのは、「日本の放送には、NHKに80年、民放に50年を超える歴史がある。それだけ国民に密着した放送のあり方については、オープンな場で国民的な議論が必要ではないか」ということである。様々な課題の決着は、広瀬次期会長に引き継いでいただくことになるが、広瀬次期会長には、日本の放送界のために尽力していただけると思うし、必ず成果をあげていただけるものと確信している。
2.放送と通信の在り方をめぐる議論について
- 記者:総務省「通信・放送の在り方に関する懇談会」の議論について。
- 日枝会長:民放連の意見は、今後ヒアリングが開催されると思うので、そうした機会にお話したいと思う。懇談会では、「NHKの在り方」「放送の規制のあり方」「放送と通信の連携」「放送の公共性」「地域性」などが議論となっている。産業論や経済合理性の視点からだけではなく、放送は視聴者と共に築いてきた文化である、という観点からも幅広い議論をお願いしたい。「放送と通信の連携」をめぐる議論は、「放送と通信は似て非なるもの」で、国民から求められる役割が違うということを前提に議論を進めないと、かえって議論が混乱してしまうと思う。放送番組のことを指して“コンテンツ”という言い方もされるが、プロデューサーや映画監督、作詞家、作曲家も、“コンテンツを創る”のだとは思っていない。番組を作り、映画を創り、曲を創るのである。生身の人間、一人ひとりの温もりが作品を生み、文化を創り、それが流通するときに商品としての「コンテンツ」と呼ばれる、ということを忘れずに論議を進めていただきたいと思う。一方、民放の地域免許制度については、「通信インフラが整備され、通信を介して動画が見られるようになった。だから、放送番組は通信回線で全国に流せるはずだ」というご意見がある。しかし、民間放送が地域ごとの免許になっているのは、地元に密着して地域文化の振興に寄与することを期待されているからだ。一極集中から地方分権へ、という大きな流れもあり、地域免許制度には意義があるのではないだろうか。地域性、地方文化の重要性も踏まえつつ、放送と通信のそれぞれのあり方、役割を考えることが、国民・視聴者のため、あるいは地域活性化のためにも大事だと思う。むろん放送事業者は、ブロードバンドで放送番組を流通させることを大いに歓迎し、期待している。
- 記者:地域性を高めるうえでの民放連の役割とは。
- 日枝会長:民放連では、会員各社が制作した番組や、放送を通じての公共的な活動に、日本民間放送連盟賞や日本放送文化大賞を贈り、顕彰している。受賞をきっかけとして、つぎの新しい取り組みに弾みがつけば、と思う。ローカル局の自社制作率が低いのではないか、との指摘があるようだが、独自の放送枠は決して少なくない。キー局であれば百人以上の専従スタッフを投入するような情報番組を、規模の小さいローカル各局が独自に編成・制作している。さらに、各地方局が独自に購入している番組も、地域性を反映し編成しているものだ。東京から見ていては分からないかも知れないが、人員も予算も限られた地方局が、ローカルニュースや地域の情報番組を毎日、制作し放送するのは大変な努力を要することではないだろうか。多メディア・多チャンネル化の中で、基幹放送としてのローカル各社が地域情報を発信し続けていけるよう、各社の取り組みを奨励するのが民放連の重要な役割であると思う。
3.NHKをめぐる議論について
- 記者:NHKの海外放送の財源に広告を導入するという意見について。
- 日枝会長:「NHKの海外放送にどの程度の経費がかかっているのか」、あるいは「どの位の人々に見られているのか」といった実態や、民放がやっている海外放送の状況等も把握したうえで、「日本として、海外の人々に何を伝えたいのか」といったことも含めて、日本の海外放送全体のあり方を議論する必要があると思う。NHKの海外放送の議論に関しては、「NHKは受信料によって成り立っており、その範囲で業務を行なうべきである」というのが民放連の基本的な考え方である。
- 記者:NHKの「チャンネル数」や「技術研究所」のあり方についてはどうか。
- 日枝会長:民放連のコメントは今後の議論の中で述べてゆくことにしている。
4.デジタル放送について
- 記者:4月1日に始まる「ワンセグ」への期待について。
- 日枝会長:いよいよ4月1日に、三大都市圏と一部の地域で、「ワンセグ」のサービスが始まることになった。今後順次全国にサービスを拡大してゆくが、ニュース、スポーツ番組の速報性の向上や、特に災害時には大いに機能すると思う。デジタル化のメリットとして、あるいは、ユビキタス社会へ一歩踏み出す材料として、期待に応えられるものであると思う。
- 記者:地上デジタル放送の地方への展開状況について。
- 日枝会長:テレビ各社は、中規模、小規模の中継局設置の検討を進め、エリアマップを作成中であり、3月中には公表できるように準備を進めている。これにより、デジタル対応のテレビや録画機をいつ買えば良いのかが一目で分かるようになるので、デジタル放送の普及にも弾みがつくと思う。
- 記者:IPマルチキャスト放送の補完的利用について。
- 日枝会長:中継局ではデジタル放送が届かない地域に限って、放送事業者としても納得のできる一定の条件のもとでIPマルチキャスト放送を補完的に活用してゆく、と言う考えには変わりない。IPマルチキャスト放送を放送と考えるか、通信と考えるかの議論があるが、そうした問題は、関係者の英知によって解決できる問題であると思う。
5.その他
- 記者:トリノ冬季オリンピックについて。
- 日枝会長:JC(ジャパンコンソーシアム)で対応する冬季オリンピックは、長野大会以来、今回で3回目である。トリノ大会は、時差や日本選手のメダル獲得数の関係から、“盛り上がりに欠けた”と見る向きもあるようだが、私は、全くそうは思っていない。競技の中継だけではなくハイライトやオリンピック関連番組を通して、多くの方がオリンピックをご覧になったと思うし、「きれいで迫力あるハイビジョン中継で世界の一流アスリートをもっと見たい」とお思いになったのではないか。
以 上