会長会見
井上会長会見
【日 時】 平成27年1月22日(木) 午後2時~2時35分
【場 所】 民放連会議室
年頭にあたって
- 記者:年頭にあたって、1年の抱負・所感をうかがいたい。
- 井上会長:今年は、阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件から20年という大きな節目の年である。これを機に、災害や事件の取材・報道のあり方や、正確に情報を伝えるという使命について改めて原点に立ち返って考え、日々の活動に活かしていきたい。取材・報道の自由の確保や放送倫理の向上という、常に変わらぬ課題にも引き続き取り組みたいと思っている。その一方で、メディアの世界で技術の進歩が大変早まると共に、家庭の視聴スタイルが変化しているので、こうした変化への対応にも目を向けたい。タイムシフトやプレイスシフト視聴が徐々に増えていくことは、時代の流れからみても避けられないことであり、こうした視聴者の実態を把握したうえで、放送局がインターネットをどう活用するのか進むべき道筋を考え、民放のメディア価値の向上策を検討していく1年としたい。昨年の秋から、在京キー局5社による「CM付き無料見逃し配信サービスの検討」や、民放連事務局による「民放のメディア価値向上に関する幅広い検討」など、具体的な取り組みが始まっているが、今年はこれを前進させるよう一層がんばってほしい。さらに、2020年の東京オリンピック・パラリンピック大会に向けてリオデジャネイロ大会と平昌大会にきちんと対応すること、ラジオの再価値化、昨年タイで実施したような放送コンテンツの海外展開事業なども、今年の大きな課題と考えている。
NHKについて
- 記者:NHKのインターネット配信について、民放連としてはどのようにお考えか。
- 井上会長:民放連はNHKがインターネットを活用すること自体を否定しているわけではない。放送ではできない部分をインターネットで補完して、国民・視聴者により良いサービスを提供しようとするのは、民放、NHKを問わず当然のことである。ただ、NHKは放送法で定められた特殊法人であって、6300億円を超える受信料収入を独占的に使って事業を運営できるという、極めて特別な立場の組織である。したがって、NHKのインターネット活用業務の大幅な拡大を認めた総務省研究会の報告書でも指摘されたとおり、「公共性が認められること」「放送の補完であること」、そして「市場への影響の程度」といったことが、当然に問われる。NHKのインターネット活用においては、「放送の補完」という目的を踏まえて、限定的、抑制的な運用となることを期待している。広告収入など民間の領域に踏み込むことや、圧倒的な受信料財源を背景としてインターネット業務を無制限に拡大することは、「公正な競争」の観点などから、避けていただきたいと考えている。また、NHKがテレビ放送の同時配信を行うことは、受信料制度との整合がとれるのかという疑問もある。
- 記者:総務省がNHKの認可申請に関する同省の考え方に対する意見募集を実施したが、これにはどのような意見を提出したのか。
- 井上会長:民放連では放送計画委員会で意見をとりまとめ、意見を提出した。今述べたような民放連の従来の考え方を踏まえた内容となっている。
- 記者:NHKが1月15日に発表した「3か年経営計画」では、インターネット展開の重視や2017年度には7000億円を超える事業収入を見込むなどの考えが示されているが、放送の二元体制という観点からどのように考えているのか。
- 井上会長:NHKの経営規模が大きくなっているのは事実であるし、これから先、事業収入が増加していった場合、それをどう視聴者に還元するのか、まずはNHKの判断をみてみたい。そのうえで、放送の二元体制を守るべく、お互いの領域を話し合いながら、民放らしさを守っていきたい。
- 記者:インターネット配信を踏まえて受信料制度の見直しにも言及しているが、どのようにお考えか。
- 井上会長:インターネット配信と受信料制度との整合性については、NHKとしても現状では対応が難しいと考えているのではないか。
4K・8K放送について
- 記者:4K・8K放送について、民放としては今後どのように取り組むのか。
- 井上会長:前回11月の会見で、ローカル局の4Kへの取り組みについて質問があり、「設備投資や伝送路などさまざまな課題があるため、すぐにローカル局が4Kで番組を制作するのは難しいだろう」とお答えした。その後も状況は変わっていないものと思う。民放連では、4Kなど次世代放送サービスに関する情報収集と会員各社への情報提供に努めているし、衛星放送による4K等の放送を具体化するうえで必要な制度改正の検討にも取り組むことになる。また、4Kの番組を制作するための機材も不足しており、対応を加速させるためには、これも解決する必要がある。
- 記者:総務省の平成27年度予算案では、4K・8K等の推進として4.4億円が計上されているが、この金額をどうお考えか。
- 井上会長:個人的感想だが、4K放送を民放が実施するためには営業的に採算がとれる必要があり、どこまで投資できるかは不透明だ。総務省としてもさらなる支援体制を整えてほしいし、予算としてはもう少し確保してほしいと思っている。
- 記者:検討のスピード感としてはどのようにお考えか。ロードマップのペースでの実現が間に合わないということはあるのか。
- 井上会長:間に合わないというわけではないがロードマップに沿った4Kの実現には解決すべき課題もあり、例えばRMPやCASの検討も必要だ。その仕様も決まっていないので、そこを早く進めなければならないと考えている。また、設備投資に見合った収益がなければ、民放としては進めることは難しい。NHKは8Kの推進を中心に考えており、温度差があると感じている。そのような課題を解決しなければ、ロードマップの通りにいかないこともあるかもしれない、という程度の感じを持っている。
オリンピック・パラリンピックへの取り組みについて
- 記者:2020年の東京オリンピック・パラリンピック大会に向けて、どのような放送体制を構築して臨むのか。
- 井上会長:民放連はNHKとジャパン・コンソーシアム(JC)を組んで東京オリンピック大会に取り組む。放送体制に関する検討を始めたばかりで、具体的なことは何も決まっていないが、日本全国の視聴者に向けて、世界最高峰の大会を余すところなく伝えられるように準備していきたい。また、東京パラリンピック大会に関しては、オリンピックと違って、どこが日本国内向けの放送権を持つのかも確定していない。状況をみながら、引き続き検討していきたい。
BPOについて
- 記者:最近、BPOの各委員会で民放の番組への議論がいくつかあったが、これについてどうみているのか。
- 井上会長:審議事案が少なくなるよう、努力を続けていきたい。各委員会の指摘には放送事業者に厳しい内容のものもあるが、会員各社には、普段から視聴者・聴取者の声やBPOの意見・提言に真摯に耳を傾け、今後の番組制作に活かしていただくよう、常にお願いしているし、徐々に向上していくと思っている。
- 記者:以前に比べ、表現への規制が厳しくなっているのか。
- 井上会長:社会全体の倫理観が厳しくなっていると感じている。だからこそ、BPOの意見を真摯に受けとめないと、報道・表現の自由ということも言えなくなってしまう。
タイムシフト視聴について
- 記者:ビデオリサーチ社が今月から「タイムシフト視聴率(録画視聴率)」のデータ提供を開始したが、これにより番組の作り方に変化はあるのか。
- 井上会長:どの程度の社が提供を受けているかは個別の契約なので承知していないが、一般に言われているドラマだけでなく、バラエティもよく見られているようだ。制作者にとってはひとつの判断材料となるだろうが、これをいかに経済的なリターンに結び付けていくかが課題だろう。
- 記者:番組の評価の尺度として、視聴率だけでは測れない時代になったとお考えか。
- 井上会長:タイムシフト視聴率調査と現行の視聴率調査では、対象世帯が違うので単純な比較はできないが、視聴率が高い番組は、比較的タイムシフト視聴の評価も高いという印象を持っている。
番組のインターネット配信について
- 記者:在京キー局3社が1週間の見逃し配信をトライアルで実施している中で、5社共同で「CM付き無料見逃し配信」を行う意味は何か。
- 井上会長:5社で行えばインパクトも大きいし、著作権などの処理も効率的に行うことができるという点は、考え方が一致している。課題を解決して、今年中に実験を行えればと思っている。
- 記者:現在、各社が行っている見逃し配信では、CMの入れ方が違うなど、システム的に違いがある。共同で実施する場合には、このようなところは統一するのか。また、プラットフォーム的なものになるのか、それともポータルサイトから各社のウェブサイトへ飛ぶようなものになるのか。
- 井上会長:費用の面やどれくらいの収入が見込めるのかなども含めて、現在、そのような課題を検討しているところだ。
- 記者:在京キー局が「CM付き無料見逃し配信」を行うことへの、ローカル局からの懸念の声はないのか。
- 井上会長:テレビに対する新たな関心を引き寄せようとする取り組みであり、放送本体の視聴率の向上にも繋がるものだと考えている。何らかの形で各局にもインターネット配信を利用してもらいたいし、各局の経営の選択肢を広げることにも繋がる。ローカル局にも、理解していただいていると思っている。
- 記者:ローカル局がインターネット配信を行う場合、コンテンツとしてはどのようなものがあるのか。
- 井上会長:設備や費用の問題はあるが、いろいろな取り組みがあるのではないか。例えば、東京に住んでいる地方出身者に向けて、その地元の話題を伝えるようなこともあるかもしれない。各社とも、工夫しようという考えを持っていると聞いている。
- 記者:ラジオの場合、民放ラジオの「radiko」とNHKの「らじる☆らじる」の2つがあるが、今回のテレビの検討では将来的にはNHKも加わるのか。
- 井上会長:発展形としては考えられるかもしれない。今後、NHKとも話していく課題だと思っている。
その他
- 井上会長:昨日行った「放送番組の違法配信撲滅キャンペーン」の記者発表で、啓発スポットを紹介したが、このほかの施策として、2月下旬に1週間程度、番組内のテロップ表示を検討していることを付け加えたい。
(了)