会長会見
2020.11.19大久保会長会見
【日 時】 2020年11月19日(木) 午後4時~4時25分
【場 所】 民放連地下ホール
○ NHKについて
◆記者:NHKが総務省に「受信設備の設置届出義務」の導入を要望していることをどのように考えているか。
◆大久保会長:「受信設備の設置届出義務」については、キー局各社の社長会見でも懸念の声があがっている。民放事業者としてはNHKが視聴者に新たな義務を課すことによってテレビ受信機の購入を控える人が増えて、テレビ離れが加速してしまうことを強く憂慮している。こうした懸念については、総務省・放送を巡る諸課題に関する検討会「公共放送の在り方に関する検討分科会」でも民放連が繰り返し表明してきたところである。また日本新聞協会も同分科会のヒアリングで、民放連と同趣旨の懸念を述べ、さらに「NHKの受信料の公平負担を追求した結果、我が国の放送文化そのものが棄損されるとすれば、本末転倒だ」と厳しく批判している。NHKと民放による放送の二元体制を維持することは、私たちもNHKも共に望んでいる。そのためには民放とNHKの双方が国民・視聴者の要望を真摯に受け止め、より多くの国民にテレビを見てもらえるようにする努力をしなければならない。私たち民放事業者も努力していくが、NHKにおいては、例えば国民・視聴者が望んでいる「受信料の引き下げ」や「契約をめぐる訪問トラブルをなくす」といった改革をどのように進めていくのか。そうした点を明確にせず、あるいは先送りしたまま、NHKに都合の良い受信機の設置届出義務だけを先に進めるということであるならば、国民・視聴者の理解は得られないと考える。朝日新聞社の世論調査でも、受信機の設置届出義務には反対の声が多く、特に50代以下の世代では7割を超える人が反対であった。設置届出義務の導入というNHKの要望が放送法改正に盛り込まれた場合、「そんな面倒なことがあるならテレビは買わない」という人が増えかねない。そうなれば放送文化全体が壊れてしまいかねない。そのように考えると国民・視聴者の理解を得られない設置届出の義務化は、私たちとしては認めることはできない。はっきりと反対だと申しあげておきたい。
◆記者:インターネット活用業務実施基準に200億円という費用の上限が盛り込まれたことをどのように考えているか。
◆大久保会長:テレビ受信機に紐づいている受信料を放送以外の事業に使うには一定の制約がかかるのは当然のことだ。総務省の認可要件でも上限の明示は必要なこととされている。したがってNHKは最初から上限を示すべきだったと思う。200億円という数字については算定根拠として公表された数字が適切かどうか、外部からは分からない。したがって200億円が適切かどうかは、現時点では評価しがたい。一つ言えることは、これはあくまで「上限」であって、すべてを自由に使えるということではない。費用の抑制に努めるという基本的な姿勢は忘れないでいただきたい。あわせて費用が適切に使われているか検証できるように、しっかりと情報を開示していただきたい。本件については総務省がパブリックコメントを実施すると思うので、しっかり議論して、改めて民放連としての見解を表明したい。
◆記者:NHKはインターネット活用業務実施基準で地方向け放送番組の配信について、東京から放送していない一部番組の見逃し配信を行うと表明しているが、民放ローカル局へはどういった影響が予想されるか。また民放連としては、どのような支援を行っていくのか。
◆大久保会長:どのような影響があるかについて、今から予測するのは控えたい。ローカル局はNHKの動きに関心をもっているので、NHKには得られたデータ等の情報をできるだけ開示して、放送業界全体に役立つよう貢献していただきたい。
○ 東京オリンピックについて
◆記者:新型コロナウイルス感染拡大の状況が深刻であるなか、IOCのバッハ会長は東京オリンピックの開催に向け力強い発言をしていた。民放連では東京オリンピックの放送についてどのような準備を進めているか。
◆大久保会長:7月に組織委員会から、競技スケジュールや会場は基本的に本年予定されていたものとほぼ同様との発表があった。本年の開催に向け概ね準備は整っていたので、改めてジャパンコンソーシアム〔JC〕として国民の期待に応える放送を行うという意識をもって、準備を継続している。またスタッフ等の新型コロナウイルス感染防止策もしっかりと講じていく。
○ 4K放送の普及について
◆記者:新4K8K衛星放送が開始して2年が経過し、東京オリンピックは民放として4Kで中継する初めての大会となる。来年は4K普及の勝負の年になると思うが、民放連として各局とどのように連携していくのか。
◆大久保会長:新4K8K衛星放送開始2周年にあたり、民放BS5局とNHKが共同でキャンペーンを行い、普及に向けた取り組みを行っている。来年はこうしたキャンペーンを結実させていくことが、民放BS各局やNHKにとって大きな課題だと思っている。各局が特色ある4K番組を放送しており、普及が進むことを期待している。東京オリンピックの4K放送については、課題もあるが、各局とも可能な限りしっかりと取り組まれると思う。
○ この1年を振り返って
◆記者:この1年を振り返った感想を伺いたい。今年は新型コロナウイルス感染症の影響で放送業界に限らず苦しい年になったと思う。そこを踏まえて伺いたい。
◆大久保会長:まだ11月半ばではあるが、年末まで見通しても新型コロナウイルスの感染拡大に苦しめられ、コロナへの対応に追われ、コロナに翻弄された一年になると思う。そのなかで民放各局は、放送の社会的責任、公共的役割をしっかり果たしてきたと考えている。民放各社は新型コロナウイルスの感染拡大防止に関する情報を積極的に提供してきた。地域によっては学習支援番組の放送や、売り上げが激減した飲食店の支援キャンペーンを行うなど、社会貢献活動に積極的に取り組んできた。こうした民放の情報は国民の高い評価を得ている。読売新聞社の世論調査によると、新型コロナウイルスに関する情報を得るうえで特に信用している情報源のトップは、民放テレビのニュースだった。放送の役割は国民の知る権利に応えて、正確で信頼される情報を伝え、それによって健全な世論形成と、健全な民主主義の発展を支えていくことだと思う。会員各社には、先日行った民放大会に代わる会長挨拶のなかで、放送の社会的責任と公共的役割をコロナ危機を機にもう一度しっかり確認し実行していただくよう、改めて呼びかけたところである。
一方でコロナ前から課題になっているのは、放送広告の価値向上である。本年8月に民放連研究所が公表した「テレビの広告効果に関する研究」の調査結果では、テレビの広告は商品やサービスを知らせる「認知」の効果はもちろん、「興味や関心を持つ」とか「印象に残る」、あるいは「欲しいと思うきっかけになる」といった点でも、インターネット広告に比べて高い評価を得ていることが明らかになった。テレビの媒体価値はインターネットを大幅に上回っていることを示した結果である。こうした説得力あるデータを使って、広告主の理解を得ていく活動に取り組んでいかなければならない。
またラジオについては、今年設立10周年を迎えたradikoに、民放連加盟の地上波ラジオ全99局が参加した。ラジオの媒体価値は改めて見直されてきていると思う。ラジオの魅力と広告媒体としての特長をさらに伝えていく工夫を検討し、実行していきたい。
(了)