会長会見
2024.01.24遠藤会長定例会見
【日 時】 2024年1月24日(水) 午後2時15分~2時45分
【場 所】 民放連地下ホール
○能登半島地震について
◆記者:令和6年能登半島地震の発生から民放各社は取材・報道を続けているが、これまでの民放と民放連の対応を教えてほしい。
◆遠藤会長:まず、被害を受けた皆さまに心からお見舞いを申しあげる。犠牲となられた方々に深い哀悼の意を表するとともに、ご遺族の皆さまに心よりお悔やみを申しあげる。
甚大な被害をもたらした災害であり、今も避難所での生活を余儀なくされている方がいる。発災直後は大津波警報が発令されていたので、各社とも画面に大きくL字画面やテロップを表示し、津波からの避難を呼びかけた。その後は避難所の様子やライフラインの情報を伝えている。SNSやウェブサイトも駆使していた。大規模な災害では通例となっているが、ほかのエリアの系列局が被災地の取材応援に入り、停電や断水が続く中で取材・報道を続けている。被災地のラジオの中継局は当初停波したところもあったが、キー局などの応援も得て復旧し、停電の中ではラジオの情報が命綱だったとの声を新聞各紙が報じている。停電の影響による停波を最小限に抑えるため、自衛隊の協力を得て燃料を補給するなど、地元局が非常災害時の情報のライフラインを維持してきた。
民放連としては、ラジオ委員会が災害に備えて被災地への配布用に備蓄しているラジオ受信機を、石川県にある民放連会員社の、北陸放送とエフエム石川に、各100台をお送りした。被災者に直接手渡したり、自治体の協力を得て配布いただいている。本日の理事会で石川県の会員社(ラジオ・テレビ計5社)の会費を1月から6カ月間免除することを決めた。事務局には引き続き、被災地の地元局が必要とすることの把握に努めるよう指示をしている。
◆記者:能登半島地震での取材・報道は、東日本大震災で得られた経験が生かされていたか。
◆遠藤会長:津波や家屋倒壊に関する注意など、東日本大震災の経験を踏まえてより具体的なアナウンスがされていたと思う。
◆記者:取り残されるエリアがないように、現場の映像を早く伝えることが大事だと思うが、遠藤会長はどう考えるか。
◆遠藤会長:放送局が届ける内容に加え、電源の問題など放送局が情報を伝えるためのインフラ整備も大事だと感じた。
◆記者:NHKは会見で「今回の地震が中継局の議論に影響を与えると思う」などとコメントしている。民放連はどのように考えるか。
◆遠藤会長:共同利用が進んでも、停波のリスクが必ずしも増えるわけではない。むしろ民放とNHKが共同で災害対策を行うことで、停波のリスクを減らせるケースもあるかもしれない。今回の地震が設備の共有化の議論を後退させることはないと思う。
◆記者:放送事業者が災害時に自衛隊の協力を得ることについてどのように考えるか。
◆遠藤会長:被災地にとって情報はライフラインのひとつで、その維持のためだったと思う。
○2024年の展望と課題について
◆記者:2024年の放送界の展望と民放連の課題を聞かせてほしい。
◆遠藤会長:昨年末に、民放連は2つ新しいことを決めた。1つは「人権に関する基本姿勢」、もう1つは「デジタル戦略特別部会」を新たに設置したことだ。
「人権に関する基本姿勢」は既に昨年公表しているので、きょうは「デジタル戦略特別部会」のことについて説明したい。さまざまなプラットフォームや、生成AI技術の台頭が、私たち民放の事業に大きな影響を与えていることはご承知のとおりだ。AIに関しては、先日、政府が「AI事業者ガイドライン」の意見募集を始めるなど、動きが活発になっている。放送コンテンツを悪用して偽情報が流布されるなど、デジタル情報空間が抱える課題も次第に明らかになってきた。「デジタル戦略特別部会」は、こうした課題に民放としてどう向き合うか議論するために発足した。先週初会合を開いたばかりで、具体的なことはこれからだが、放送事業での生成AIの利活用や、偽情報への対策、プラットフォーム事業者との向き合いなどが当面のテーマだ。守りの話だけでなく、インターネットや生成AIの技術をうまく活用しながら、民間放送の存在感を高めることができたらと考えている。「人権」と「デジタル」は、民放連の今年の新しい重点課題となる。
これに加えて、元日に起きた能登半島地震に関する報道と、被災地の復興に向けたあらゆる支援も非常に大切だ。被災地の地元局だけでなく、民放全体で総力を挙げなくてはならない。今回の地震の際にも、インターネット上に拡散された偽情報が消防や警察の活動の妨げとなったと聞いている。デジタル情報空間に関する課題も浮き彫りになったと思っている。悪意に満ちた偽情報の発信者に、アクセス数に応じた報酬が支払われる仕組みは、極めて問題だと思う。取材に裏付けられた正確な情報を届ける民間放送を守っていくことが我々の責務で、その事業継続性をしっかり確保していくことが肝要だと考えている。
その取り組みの1つが中継局の共同利用の推進だ。昨年末に、NHK、民放、総務省が参加する協議会が発足した。放送を全国に届け続ける体制を維持するために、NHKと協力して効率化を目指したい。NHKのネット配信を必須業務化するための放送法改正案が、今年の通常国会に提出される見込みである。必須業務化は公正競争の担保とセットなので、NHKがネット配信において何をやり、何をやらないのかを明確に示してほしい。関係者がしっかりと議論し、実効性のある競争評価の体制や基準を整備する必要があると思う。
民間放送が厳しい事業環境にあることは言うまでもないが、民間放送が果たす役割を社会に発信し、存在意義を高めたい。視聴者・リスナーはもちろんのこと、広告主企業や広告会社、総務省、そして二元体制の相方であるNHKとも対話をしながら、未来志向の前向きな議論を進める一年でありたい。
○「人権に関する基本姿勢」について
◆記者:「人権に関する基本姿勢」を公表したが、これを踏まえて民放各社にどのようなことを期待するか。
◆遠藤会長:「基本姿勢」は、人権の尊重、人権侵害の防止、メディアとしての社会的責任の3つの柱で構成した。「基本姿勢」で謳っている理念が、職場全体に根付いているか、会員各社それぞれが改めて確認してほしいし、今後も「基本姿勢」に立ち返りながら確認を続けたい。「基本姿勢」は、民間放送に関わる全ての取引先にも賛同を求めている。社会における人権侵害を起こさない、見逃さない、許さないために、各地の放送局が報道や事業活動を通じて、地域の中でそれぞれの役割を果たしてほしい。
◆記者:スマイルアップ社への期待や、松本人志氏の事案について、「人権に関する基本姿勢」と照らしてどのように考えているか教えてほしい。
◆遠藤会長:スマイルアップ社には被害者救済・再発防止を、実効性を伴って見える形で進めていただきたい。松本氏の件は、双方の言い分が対立しており、コメントすることは難しいが、この件に限らず、民間放送は人々の知る権利に応えるために事実をしっかりと確認し、確認できた時点で伝えるべきことを伝えていくことが大事だ。
◆記者:収録済みの松本氏出演番組を放送する際に、スポンサーが名前を出すことを控えたり、松本氏が出演を予告していた番組で出演が見送られたりといったことについて、どのように考えているか。
◆遠藤会長:旧ジャニーズ事務所の問題以来、人権に関する考えが各企業にも浸透している印象を持つ。個別の番組に関することはコメントを差し控えたい。
◆記者:松本氏の件で所属事務所に申し入れや事実の確認を行う考えはあるか。
◆遠藤会長:裁判の場で明らかになるので、そちらを注視したい。
○会長任期について
◆記者:会長の任期は6月までだが、続投の意思はあるか。
◆遠藤会長:私を含め、民放連の役員の任期は6月の定時総会終結時までだ。各役員がさまざまな課題について精力的に取り組んでいるところであり、今、私自身のことについてコメントすることは差し控えたい。
(了)