会長会見
2024.06.14遠藤会長定例会見
【日 時】 2024年6月14日(金) 午後4時30分~5時
【場 所】 民放連地下ホール
○2期目の抱負
◆記者:2期目の抱負を聞かせてほしい。
◆遠藤会長:本日開催の総会と理事会で会長に再度選任された。会長再任にあたり、総会にお集まりいただいた会員社の代表者に挨拶した。そこで2期目の重点課題として申しあげたのは、「人権」「デジタル」「放送広告の価値」「ローカル局、ラジオ局の経営課題」の4点だ。
「人権」の尊重は、民放連の放送基準の冒頭にも掲げられており、放送内容に関してはこれまでも十分留意してきた。しかし、いま企業に要請されているのは、事業活動全般を人権尊重の観点で見直すことだと思う。昨年12月にとりまとめた「人権に関する基本姿勢」をもとに、研修や啓発活動を進めたい。その一環として、「民放online」でシリーズ「人権」を連載中だが、民放業界として学ぶべきところが多いと感じている。
「デジタル」への対応だが、生成AIや偽・誤情報への対策などがあげられる。チャットGPT3.5が一昨年の11月にリリースされてから、1年半が経った。みなさんの業務フローのなかにも生成AIが少しずつ入り込み、業務の効率化に貢献しているのではないか。その半面、フェイク動画や偽・誤情報の作成と流布など、一般の人が使えるようになったがゆえの弊害も明らかになっている。総務省の情報流通の健全性検討会でも、デジタル空間の弊害にどう対処するかの議論が進んでいる。信頼できる情報を提供することが私たちの責務だが、その価値をデジタル空間でどう発揮していくことができるか、民放連としても議論を進めたい。
「放送広告の価値」については、偽・誤情報が跋扈する背景には、そうした情報を発信した人や、場を提供したプラットフォーム事業者に広告費が入っている構造が見逃せない。日本アドバタイザーズ協会もさまざまな取り組みを進めているが、アドフラウド、ブランドセイフティなどが問題視されている。信頼できる「放送」に広告を出稿いただくことには、単純な数字以上の価値があると考えている。民放連は会員社の2024年3月期の決算を集計中だが、赤字社が一定数ありそうな感触だ。物価高騰のあおりを受けて番組制作費が高騰し、人手不足を背景に人件費が上がり、さまざまな燃料コストも増えており、苦しい状況だ。その半面、私どもが提供している番組と広告枠には大きな価値がある。このことを根拠となるデータとともに、広告主をはじめとするステークホルダーのみなさまに、改めてお伝えし理解をいただきたい。そのための努力は惜しまない所存だ。
「ローカル局、ラジオ局の経営課題」への取り組みについては、キー局と比べて厳しい経営環境に置かれているローカル局だが、地域社会の発展に貢献し、地域ジャーナリズムを維持・牽引するかけがえのない価値を持っている。民放連賞による賞揚や「民放online」での拡散などをとおして、その価値を社会に訴えていく必要がある。1期目に引き続き、ローカル局やラジオ局が抱えている経営課題を共有し、その解決の方向性に関する調査研究も積極的に進めたい。
こうした4点をポイントにして、「民間放送の価値を最大限に高め、社会に伝える施策」は2期目も引き続き実施する予定だ。具体的な内容は、新体制における各専門委員会の委員長と相談しながら9月の会見で公表する。
○放送法改正案について
◆記者:NHKのインターネット活用業務を必須業務とする改正放送法が成立した。「番組関連情報」の配信が義務付けられたこととあわせて、所感を伺いたい。
◆遠藤会長:改正放送法の成立で、NHKには、▽放送番組の同時配信、▽見逃し配信、▽「番組関連情報」の配信――を行うことが義務付けられた。また、テレビ受信機の設置と同じく、ネット配信の受信からも受信料を徴収することになったことも新たなポイントだ。放送制度の中でネット配信の位置付けを強めたことは、放送の歴史の中でも大きな転換点だと感じている。
3月の会見でもお話ししたとおり、この問題は「道半ばであり、NHKが『番組関連情報』として何をやり、何をやらないのか、まだファジーなところがあるので、NHKとしっかり話し合っていかなければならない」との認識に変わりはない。法改正で競争評価のフレームは固まったが、総務省の検証会議が稼働するのは秋以降になると聞いている。NHKの稲葉会長は5月の会見で、「メディアの多元性確保に最大限、努力する」「NHKの振る舞いによって、他のメディアとの競争条件に支障が生じないよう対応する」などと述べておられる。今後は放送法に定められた「競争評価」の仕組みがワークするよう、民放や新聞の意見をしっかり聞いて、丁寧に取り組んでほしい。
◆記者:NHKとの中継局の共同利用に向けた議論の進捗状況を教えてほしい。
◆遠藤会長:改正放送法が成立し、民放事業者の難視聴解消措置の実施に対して、NHKが必要な協力をしなければならないと規定された。民放とNHKの協議を後押ししてくれるものと期待している。民放、NHK、総務省の3者による「中継局共同利用推進全国協議会」を軸として、実務的な検討は進みつつあると聞いているが、この場で何か申しあげられる段階にはない。送信コストの低廉化は、民放にとって重要な経営課題だ。民放連としても大事な問題だと考えており、関係する委員会で引き続き検討したい。
◆記者:インターネット活用業務の必須化で、テレビ受信機を持つ者には支払い義務が発生する一方、スマートフォンを持つ者には受信契約を選択する余地がある。この矛盾をどのように考えるか。
◆遠藤会長:どの段階で受信契約をする意思を示したと判断するのか、その基準はまだ示されていないが、国民・視聴者の理解と納得を得ることが原則だ。スマートフォンを持っているだけでネット受信料の支払い義務が生じるようなシステムは国民・視聴者の理解を得られないと思う。NHKをネットでも受信する意思が示されない限り、支払い義務を課すのは難しいのではないか。
○「セクシー田中さん」について
◆記者:「セクシー田中さん」に関する日本テレビなどの報告を受け、原作付きコンテンツの在り方は、今後、どのような形が望ましいと考えるか。また、ドラマ原作者等の保護について民放連で取り組むことがあるか。
◆遠藤会長:改めて、お亡くなりになられた芦原妃名子さんのご冥福を心からお祈りする。テレビ番組の制作に関わった方が亡くなった事案であり、重く受け止めている。
日本テレビと小学館のそれぞれから、大部の報告書が出されており、両社とも緻密な事実認定がなされているようだが、異なっている部分もあると聞いている。個別の内容に関してはコメントを控えたい。
一般論として言えば、小説や漫画といった原作の世界をテレビドラマに移し替えるときには、文字や動かない絵を生身の人間が演じる“動く絵”にするために、さまざまな創意工夫が必要となるのも事実だ。そうしないと、原作の世界が視聴者に伝わらないからだ。そうであるからこそ、関係者の間で世界観を共有するような綿密なコミュニケーションがとられる必要がある。日本テレビの石澤社長は「ミスコミュニケーション」という言葉を使っていたが、コミュニケーションの不全を起こさないようにすることが大事だ。制作現場の時間的、精神的なゆとりが不可欠であり、こうした点に配慮していく必要がある。
民放連として共通ルールを作るのではなく、各社が今回の事案を踏まえて、自律的に自社の制作現場を点検することが必要なのではないか。
○パリ五輪への期待
◆記者:2024年パリ五輪への期待や準備状況、選手へのエールを聞かせてほしい。
◆遠藤会長:パリ大会で初めて実施されるブレイキンや、東京大会で追加競技となったスポーツクライミング、スケートボードなど五輪の競技が多様になってきたと感じる。日本人選手が1つでも多くのメダルを獲得できることを期待している。また、パリのランドマークで行われる競技もあるので、視聴者としても映像を楽しみにしている。
◆記者:五輪のTVerでの配信について、これまでの手応えと今回の期待を聞かせてほしい。
◆遠藤会長:さまざまなデバイスで五輪が視聴できることは、視聴者の利便性向上に貢献することにもつながる。テレビ画面以外でも五輪の生中継を視聴いただくことは視聴者サービスとしても素晴らしいことだ。
◆記者:配信で各局に力を入れてほしい部分はあるか。
◆遠藤会長:国民から特に期待されている競技については、その期待感に沿った形で配信してもらえると嬉しい。
◆記者:放送と配信のバランスについて、考えを聞かせてほしい。
◆遠藤会長:時間的な問題でテレビ視聴に馴染まない競技を視聴者のニーズに応じて補完的に配信することは合理的だと思う。
◆記者:さまざまな配信事業者がいる中で、民放全体としてTVerで配信していくことへの意気込みを聞かせてほしい。
◆遠藤会長:視聴者からは地上波+αが求められている。地上波とTVerを合わせてお楽しみいただきたい。
◆記者:2032年以降の五輪の放送権について、決まっていることがあれば教えてほしい。
◆遠藤会長:現時点でコメントできることはない。
◆記者:人気スポーツの放送権料の高騰について考えを聞かせてほしい。
◆遠藤会長:大きな課題であり、さまざまな工夫が必要だと思う。
○警察密着番組について
◆記者:テレビ東京は「激録・警察密着24時!!」で放送した内容について過剰な演出や不適切な内容があったとして謝罪した。この件について、遠藤会長の考えを聞かせてほしい。
◆遠藤会長:事実関係を確認するなど、客観的な番組作りを行わなければならないのは言うまでもない。当該番組については、放送した社が謝罪している。各社の番組制作について、民放連会長としての言及は控えたい。
(了)