一般社団法人 日本民間放送連盟

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(報道発表)民主党「子ども有害情報からの子どもの保護に関する法律案」骨子に対する意見について

 社団法人 日本民間放送連盟〔民放連、会長=氏家齊一郎・日本テレビ放送網社長〕は本日、民主党の「子ども有害情報からの子どもの保護に関する法律案」骨子に対して、"自民党が検討している青少年社会環境対策基本法案と同じく、国家による「表現の自由」への介入につながりかねないため、反対である"旨の意見を、民主党「有害情報から子どもを守るための法制定ワーキングチーム」に提出いたしました。
 意見書では、同骨子は ① 子どもの権利擁護の法律をめざすと主張しながら、子どもの自由を軽視している、② 言論・表現の自由にかかわる公的規制を避け、自主規制を最大限尊重すべきである、③ 内閣総理大臣などの行政の長ではなく、「子ども有害情報対策委員会」が勧告を行うとしてあるが、こうした規定をもってしても、なお公権力の恣意的運用に委ねられるおそれが強い、などの問題点がある ―― と指摘しております。


平成13年4月4日
民主党「子ども有害情報からの子どもの保護に関する法律案」骨子についての意見
(社)日本民間放送連盟

 貴党が本法律案骨子で展開している、"子どもが健全に育つために社会が責任を負っている"との考えを、われわれ民間放送事業者は共有している。しかしながら、本法律案骨子は国家による「表現の自由」への介入につながりかねず、反対である。「表現の自由」にかかわる領域について、国家がみだりに干渉しないことは民主主義の基本原理である。
 また、本法律案骨子とあわせて公表した文書の中で、貴党は子どもの権利擁護の法律をめざすと主張されている。しかしながら、児童の権利に関する条約第13条第1項は、「児童は、表現の自由についての権利を有する」としたうえで、この権利には「国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む」としている。本法律案骨子の問題点は、この子どもの自由を軽視しているところにある。子どもが保護の対象であるとともに、表現の自由の主体であることを考えれば、子どもが受け取る情報について国家が有害か否かの指針を示すことの問題性は明らかであろう。
 以下、上記を前提として、われわれの考え方を述べる。

Ⅰ 法案骨子全般に関する意見

1.自主規制機関のある分野では、その取り組みを尊重すべきである。

 言論・表現の自由にかかわる問題への公的規制を避け、自主規制を最大限尊重すべきである。  マスメディア各界は自主規制の強化を進めている。こうした分野別の取り組みを最大限尊重すべきである。貴党も自民党も、「自主規制を促進するための立法が必要」と主張するが、公的規制によらないのが本来の自主規制である。

2.自主規制の行われない分野については、既存法規の活用などにより対応すべきである。

 この法律案骨子とあわせて貴党が公表した文書では、有害情報の事例として、「テレフォンクラブのピンクチラシ」が挙げられているが、テレフォンクラブについては風俗営業適正化法改正による規制強化が日程に上っている。このように、真に子どもに有害な情報については、個別的に業態等を検討したうえで、既存法規の活用などにより公的規制および自主規制を促進させるべきではないか。

3.放送については、放送法による規制と自主規制に委ね、対象外にすべきである。

 放送については、憲法21条による「表現の自由」の保障に加えて、「放送法」により「表現の自由」の確保(同法第1条)、放送番組編集の自由(同法第3条)、番組編集準則の順守(同法第3条の2)、番組基準の制定とその順守(同法第3条の3)、番組審議機関の設置(同法第3条の4)、総務大臣への資料の提出(同法第53条の8)などが規定されている。さらに、民放連放送基準による自主規制、視聴者からの苦情を処理する放送界の自主的第三者機関「放送と青少年に関する委員会」の設置など、複層的な自主規制システムが整えられている。
 貴党のめざす法規制の対象に放送が含まれるとすれば、法律による二重規制となるため、放送分野については対象外とすべきである。具体的には、「骨子三 基本的理念 3」および骨子九で明記すべきである。

Ⅱ 法案骨子の個別的問題点  冒頭述べたとおり、われわれは国家による表現規制を容認できない。この観点からみて、この法案には少なくとも以下の個別的問題点があると考える。

1.有害情報の定義について

 有害情報は「残虐な暴力、性暴力、人種、民族、障害等による差別、薬物に係る犯罪又は売買春に関する情報」であり、かつ「子どもの心身の健全な発達を阻害するおそれのあるもの」と定義されている。情報の種類については一定の限定が試みられているが、内容については「おそれのあるもの」との文言で、曖昧さが残っており、具体的な運用が恣意的になる懸念がある。

2.子どもの心身の発達について

 「子どもは、心身の発達の状況に応じ」(骨子三ほか)とあるが、具体性を欠いている。乳幼児や7歳児の段階に必要な保護と、10代後半という成人に近づきつつある世代に必要な配慮の違いについて、発達心理学などの見地から明確化しておくべきである。

3.子どもの主体性の尊重について

 子どもの保護について、保護者が第一義的責任を有する(骨子一、三、四)との基本理念が掲げられているが、こうした保護者の責務も、子どもが表現の自由の主体であるという児童の権利に関する条約の規定に沿うものであること、また、子どもの「心身の発達の状況に応じ」るものであることを明示すべきである。

4.国および地方公共団体の責務について

 骨子七で「国の責務」について規定されているが、具体的な行政措置としては十七の「中央子ども有害情報対策委員会」以外にはありえないことを明記しない限り、自民党法案と同様、公権力の恣意的運用に委ねられるおそれが強い。骨子八「地方公共団体の責務」についても同様である。

5.中央子ども有害情報対策委員会について

 骨子十七の「中央子ども有害情報対策委員会」については、①委員会の独立性を確保するための措置、②委員の人選にあたっての多元性と透明性の保障、③事業者に対する権限は「勧告」から「助言」に変更――が最低限必要である。骨子十八の「地方子ども有害情報対策委員会」についても同様である。
 また、「中央子ども有害情報対策委員会」が「事業者が講ずべき措置に関する指針」を定めることになっているが、児童の権利に関する条約においても、「締約国は、(中略)第13条及び次条の規定に留意して、児童の福祉に有害な情報及び資料から児童を保護するための適当な指針を発展させることを奨励する」とされており、国の機関である同委員会の役割は指針作りを支援する立場に限られるべきだ。

以上

この件に関する問い合わせ:民放連[番組部]