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(報道発表)「緊急地震速報の本運用開始に係る検討会」最終報告(案)に対する意見の提出について
社団法人 日本民間放送連盟〔民放連、会長=広瀬道貞・テレビ朝日会長〕は、気象庁が行っている「緊急地震速報の本運用開始に係る検討会」最終報告案の意見募集に応じて、下記の意見を2月9日、提出しましたのでお知らせいたします。
本意見書では、緊急地震速報を不特定多数に伝達して防災効果を発揮するためには、速報を受け取った一般市民が適切な行動を取れることが大前提であることを指摘したうえで、(1)緊急地震速報を受け取った際の「心得」の周知が行われていない状況では、速報の放送により二次的被害が引きる可能性が高く、放送実施に踏み切れないこと、(2)「心得」の周知は政府全体で取り組むべきこと、(3)「心得」の周知度を見極めたうえで緊急地震速報の一般への提供開始時期を決定すべきであり、そのために本検討会を継続設置すべきこと、(4)カーラジオの聴取などにより二次被害が危惧されるラジオでの伝達については継続的な検討の場を別途設定すべきこと――などを主張しています。
当連盟は昨年4月に、本検討会の中間報告(案)の意見募集に応じて意見を提出し、そのなかで次のとおり、基本的考え方を明らかにしています。
「政府が導入を予定している「緊急地震速報」の災害情報としての有用性は、十分認識しており、放送を通じた伝達の開始については、放送業界として前向きに検討を行っております。しかしながら、中間報告(案)に至る検討のなかで、放送を通じて不特定多数の人々に緊急地震速報を伝達した場合、どのような減災効果が、どの程度もたらされるかについて、十分な検証がなされていないと思われます。その一方で、本中間報告(案)でも指摘されているとおり、集客施設等で緊急地震速報が伝えられた場合、パニックを生じて、かえって被害を拡大するおそれもあります。不特定多数への情報提供を開始するためには、こうしたメリット・デメリットの冷静な比較検証が不可欠です。さらに緊急地震速報が伝達されて、有用性を発揮するためには、情報を受け取る側が情報の特性や限界等を十分理解し、受容後に適切な行動をとる必要があります」
この基本的な考え方は、現在も変わっていません。この考えを前提に、今回の意見募集に対して、下記のとおり、意見を申し述べます。
1.周知・広報活動について
不特定多数に情報を伝えるという放送媒体の性格上、緊急地震速報を実施するためには、その性格と、受け取った際の「心得」を一般市民が十分理解していることが肝要である。「中間報告以降の進捗状況について(案)」(以下、「報告案」)にもあるとおり、こうした「心得」の周知が行き届かない状況で放送された場合、無用な混乱や二次的な事故を引き起こしかねない。
「心得」の周知・広報が行き届かずに、混乱や事故が発生することが明らかに予見される社会的状況であれば、放送事業者としては緊急地震速報の放送を開始することはできない。このように周知・広報活動がきわめて重要であるにもかかわらず、「報告案」(p.11)のなかでは、「気象庁は(中略)積極的な広報活動を進めることが必要である」と書かれているのみである。
したがって、「最終報告」には、①政府全体で一体的な広報活動を展開すべきこと、また、②具体的な広報スケジュールを早期に確定して明確にすべきこと――を書き込むべきである。
2.一般向け情報提供開始時期の判断について
「報告案」(p.12)では、一般向けの情報提供の開始時期について、最終報告後6ヵ月程度の期間を置いた後としているが、既に述べたとおり、一般市民への周知度を見極めたうえで、開始の判断をする必要がある。当連盟会員社の中には、最終報告から6ヵ月後の開始を時期尚早とする意見が強くある。緊急地震速報の認知度については、当連盟としても独自に調査を実施する予定だが、政府も自らの責任で調査を行うべきだと考える。
また、どの程度の「心得」の周知度があれば、一般向け情報提供による減災というメリットが、情報提供による二次被害発生というデメリットを上回ると考えるのか。政府の判断基準を明確に示すことを強く要望する。
こうしたことを踏まえて、緊急地震速報を実際に運用する関係者が集まっている本検討会を継続設置し、一般向け情報提供の開始前に一般市民への周知度やモデル実験の成果を評価する機会を設けることが不可欠であり、そのうえで提供開始時期を最終的に決定すべきである。
3.ラジオによる緊急地震速報の伝達にかかわる問題について
テレビによる伝達については、放送に向けた課題の検討がある程度進捗しているが、ラジオによる伝達については、「報告案」(p.7-8)にも記述があるとおり、放送表現などを含めて、未確定の部分が多い。
音声媒体であるラジオの場合、通常の番組を中断して速報することになり、こうした放送が聴取者に与えるインパクトは大きなものにならざるを得ない。さらに、ラジオの場合、カーラジオによる聴取が想定される。
「報告案」の参考資料8で、ドライビングシミュレータを用いた走行実験の結果が紹介されているが、前方車のみに警報を流した実験では2割が追突事故を起こしている。放送事業者としてこのデータは無視できない。高速道路走行中にラジオを聴取している人の比率はかなり高く、そのうち僅か数名のドライバーが緊急地震速報に驚き急ブレーキをかけた場合でも、大きな死傷事故が発生しうる。テレビなどの他媒体での伝達に比べて、ラジオは情報による二次被害の発生を、より心配しなくてはならない。
気象庁は「中間報告」で、一般向けの緊急地震速報の発信基準を、推定震度5弱以上としている。しかし、このようなラジオ特有の問題を考慮に入れた場合、死者の発生がほとんど想定されない推定震度5弱の地震についても、ラジオで緊急地震速報を放送すべきなのかどうか、更なる検討が必要である。また、民放ラジオとNHKラジオで、緊急地震速報を放送するための推定震度の基準が異なることは避けるべきである。
政府の責任において、NHK、民放、関係省庁、有識者が協議する機関を設置して、ラジオ特有の問題について検討を行うべきだと考える。
4.その他の意見
「報告案」(p.4)に、「緊急地震速報の認知度が徐々に上がってきている」との記述があるが、これは緊急地震速報の名称を聞いたことがあるという程度の認知度に関するもので、不適切な表現である。一般市民への周知が全く不十分という現状認識に変更されるべきである。
また、「報告案」(p.16)では、「国民の一人、一人が責任者になって」との記述があるが、情報発信者である政府の責任が第一義であることをあわせて明記すべきである。
この件に関する問い合わせ先:民放連〔番組部〕