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第60回民間放送全国大会/井上会長あいさつ
日本民間放送連盟会長の井上です。
主催者を代表いたしまして、一言ご挨拶申し上げます。
本日は、第60回民間放送全国大会式典に、お足元の悪いなかご参集いただき、ありがとうございます。
お忙しい中をご出席賜りましたご来賓の皆さま、全国からお集まりくださいました会員社の皆さま、本当にありがとうございました。
民放連は、1951年に予備免許を受けた民放ラジオ16社によって発足しました。そして翌年の1952年4月に社団法人としてスタートいたしました。現在では会員社の数も204社に増え、還暦を越えた今年4月には、一般社団法人に衣替えいたしました。
それと軌を一にしてテレビ放送も全国でデジタル化いたしました。今年3月31日をもって、被災した岩手・宮城・福島の東北3県のデジタル化が完成し、テレビ放送は新しい時代に入りました。
しかしながら、日本全体を取り巻く環境、特に政治は内外を問わず不透明な状況です。経済は円高の進行、ヨーロッパ通貨の不安定、これまで世界経済を牽引してきた感のある中国経済の減速、そして日中両国にとりましては尖閣諸島をめぐる両国の関係悪化が両国の経済に大きな影響を与えています。こうした状況は、私たち広告に拠る民間放送にとりましても実に多事多難な時代でございます。
こうした中で、ラジオは、昨年の東日本大震災で、改めて媒体としての存在意義は十分皆さんにご認識いただいたわけですが、誠に残念ながら広告媒体としての評価には結びついていません。
今、ラジオは収入が15年前の約半分になっております。民放連では、ラジオ委員会が先頭に立って、ラジオの媒体価値向上、リスナー層の拡大などに努めるとともに、V-Low帯を使用したラジオのデジタル化は果たして事業的に可能であるか、そうした面を含めて、幅広く精力的に検討を進めております。
今後もラジオにつきましては、ここにお集まりの方々のご支援を賜りながら、将来にわたってラジオがメディアとしての役割を果たしていく道筋を示してまいりたいと思います。
この十数年間で、社会に最も大きな変化をもたらしたメディアはインターネットであることには異論はないと思います。一時期、インターネットによってテレビは衰退する、テレビはインターネットにテイクオーバーされるのではないかというような議論がありましたが、現実にはテレビは依然として最強のメディアです。
現在いろいろなデバイスが進展しておりますので、テレビで同時に見る、テレビ放送を生で見るという数字は多少下がってきておりますが、いろいろなデバイスを通じてテレビの番組を見てくださっていると捉え直せば、依然として従来と同じくらいの視聴者の方々が私たちの番組を見ていただいているという見方もあります。
人々がインターネットを使って、関心のある情報を集めたり、番組について交流したりと、テレビとネットはある意味で共存共栄をしている状況になっております。まさにお互いがそれぞれの役割に合った分担で共存しているものと思っております。
テレビ番組を題材にしてネット上で話題が盛り上がるという現象が多く見られるようになりました。直近の例では、SNSオリンピック元年と言われた、今年のロンドンオリンピックでも、そのことは顕著に表れています。
今後ますます、インターネットをテレビ番組の充実、そして広告に活かしていくよう、私たちとしても積極的に働きかけていかなければならないと思っております。
さて、そのロンドンオリンピックの放送ですが、残念なことに、民放としては初めての赤字となりました。オリンピック放送は、まさにアスリートたちが頂点を目指して努力する素晴らしさや、クーベルタン男爵の理想に合致することと思いますが、多様な民族が共存していくことの大切さなどを視聴者の皆さまにお伝えすることは、お金では測れない価値があると考えています。これこそ、まさに放送の公共的な使命であると思っておりますが、私たちは民間企業でありますので、なんとしてもビジネスとしてどうすれば成り立つかを模索していかなくてはならないと考えております。
次にNHKとの関係です。
日本の放送は、受信料を財源とするNHKと、広告収入を主な財源とする民間放送とが競争しながら共存するという、世界にない二元体制で発展してきました。
今年10月から、NHKは受信料を値下げしました。大幅な減収に対処するための業務の効率化をいっそう進められていると聞いております。しかしながら、受信料収入が減少したからと言って、決して縮こまることなく、放送界全体の発展のために、今後も主導的な役割を積極的に果たしていくことを期待しております。
また、NHKと民放事業者は自らを振り返り、前へ進むために、BPOを設置いたしました。世界に例のない、画期的な放送の自律の第三者機関です。
わけてもBPOの「放送倫理検証委員会」は、発足して5年が経ちました。この間、検証委員会では、「虚偽の疑いのある番組を個別に審理する」という本来の活動に加えて、「これは放っておけない」という事例についても、個々の番組の枠を超えて丁寧な議論が行われてきました。この間に提供された「意見」の数々は、放送界の財産であると思っております。
私たちは、こうした応援をいただきながら、今後とも変わらず、情報の「目利き」として自信と誇り、そして節度を持って、放送を通じて選りすぐりの番組を提供して参ります。
その過程でエラーが起こったときには自ら原因を検証し、反省すべきは反省する。このことを、この場で改めて皆さまと確認したいと思います。
スマートテレビや3D、4K、さらにスマートフォンやタブレットといった受信端末が次々と開発され、ますます賑やかになってまいりました。
しかし、どんなに技術が進んでも、放送の本質は番組を送り届けることであります。番組こそが私たちの主戦場であり、視聴者と広告主のみなさんに評価していただける要諦です。報道であれ、娯楽であれ、情報であれ、番組を磨かずして、放送の未来はありません。私たちは視聴者の皆さんに、「見て良かった」「楽しかった」と、そう思っていただける番組を作り続けて参ります。
放送コンテンツについては、国内だけでなく海外展開にも私たちは取り組んでいます。その橋頭堡となる「国際ドラマフェスティバル」は、今年で6回目となりました。こうした取り組みは長期的なビジョンが必要です。海外展開はビジネスの面から考えるだけでなく、日本の文化を世界に発信していくという重要な使命があると考えています。
このように私たち民間放送には、様々な課題がありますが、関係する皆さまのご協力を得て、一つずつ解決し、少しずつ着実に前進していきたいと思います。
最後になりましたが、本大会実現のためにご尽力いただきました豊田民放大会委員長をはじめ、一丸となって大会の準備を進めてこられた各社の皆さまに、心から感謝を申しあげ、ご挨拶とさせていただきます。
平成24年11月6日