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第62回民間放送全国大会/井上会長挨拶
日本民間放送連盟会長の井上です。
主催者を代表いたしまして、一言ご挨拶を申しあげます。
本日は、ご多用中にも関わらず多数の皆さまにご出席いただき、ありがとうございます。また、来賓として高市・総務大臣、籾井・NHK会長にもご臨席いただき、ありがとうございます。
さて、今年は、大きな災害が多い一年でした。広島の土砂災害、御嶽山の噴火、そして度重なる大型台風や集中豪雨など、例年にも増して自然災害が相次いでおり、多くの方が被害に遭われました。被災された方々に対し、心よりお見舞い申しあげるとともに、亡くなられた方々に心からお悔やみ申しあげます。
こうした災害時におきまして、地域の皆さまの生命・財産を守るために、正確な情報をいち速くお伝えするラジオ・テレビの役割が不可欠であります。私たちは災害時において的確な情報を発信できるよう、ライフラインとしての使命を果たすため、努力を続けていかなければならないと考えております。
昨今、技術の進歩が大変早くなっていることに加え、女性の社会進出も進み、家庭の生活リズムが変化しております。まだまだライブでテレビを視聴することが中心ではありますが、タイムシフトというテレビの視聴形態の多様化や若者世代を中心とした「ラジオ離れ」が大きく進んでおります。
テレビについては、タイムシフト視聴に関する視聴データが最近公表されるようになりましたが、残念ながら、視聴形態の多様化によって、民放事業者に経済的な価値がもたらされる状況にはありません。
一方、インターネット上では、私たち放送事業者のみならず、権利者の皆さまの財産である放送番組が、いわゆる「違法動画」として跋扈し、その価値を棄損している現実があります。
このように放送メディアを取り巻く環境が大きく変化している中、民間放送が、さらに成長・発展していくために、放送事業者が主体となって採るべき道は何なのか、今、真剣な検討が求められております。
そこで、私は、この9月、民放連事務局に、民放のメディア価値向上に関する幅広い検討を指示いたしました。これまでの研究の蓄積も踏まえ、現在の民間放送のメディアとしての位置づけを再確認し、特にインターネットに対して、どのように放送のプレゼンスを示していくのか、どう向き合い、どう対処するのか。その課題と問題点を包括的にまとめ、何らかの成果を引き出して、会員各社の皆さまと共有したいと考えております。
また、インターネット上の「違法動画」については、放送番組の価値を棄損する看過できない問題でありますので、知財委員会が中心となり、これまで以上に徹底した対策を検討してまいります。知財委員会では、啓発スポットの制作や、関係機関との連携など、さまざまな取り組みの検討に着手しております。違法と知っていて動画をネットにアップしている人、知らずにアップしたり利用したりしている人、こうした人々に違法性をきちんと啓発する必要があります。具体化しましたら、広く公表するとともに、会員各社のご協力を改めてお願いしたいと考えております。
一方、在京キー局5社が中心となって、インターネットによるテレビ番組のCM付き見逃し視聴サービスについて、共同で検討を始めております。技術面、営業面、権利処理面など、さまざまな問題があると承知しておりますが、見逃し視聴サービスの提供が、民放のメディア価値を広げると同時に、視聴者にテレビ放送の良さを再確認していただき、リアルタイムでテレビを見てくださるきっかけになるのではないか、という思いもございます。
ラジオ放送については、radikoを活用して若年層への取り組みを強化しているほか、政府の制度整備により、V-Lowマルチメディア放送の実現と、AMラジオの災害対策・難聴対策を目的としたFM補完中継局の開設が可能となりました。これにより、現在、都市部などでラジオを聴くことができない、という現状を解消できるものと思います。ラジオ業界が一層活性化するためには、各社が、こうした制度をうまく活用すると同時に、インターネットとの連携をより一層深めることにより、ラジオ放送の面白さや魅力について、若者世代をはじめ多くの方々に理解してもらうことが重要であると考えております。あわせて、災害時の強力なライフラインとしての役割を担い、役立ってくれることを期待します。
新しいことに取り組むことには、恐怖感もあり、経営者としては慎重になってしまいます。しかしながら、現状に満足せず、変化を恐れず、果敢に挑戦を続けることが、民間放送のより一層の成長・発展につながると確信し、今後とも取り組んでまいります。
「変化への対応」という意味においては、着々と進む放送技術の進化への対応も重要な課題であります。
6年後に迫った2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けた放送の中で、「4K/8K放送」の実用化への試みがあります。総務省の最新のロードマップでは、「衛星セーフティネット終了後のBSの空き周波数帯域において、2016年に4K及び8Kの試験放送を開始する」との目標が示されておりますし、2020年までには、一般のご家庭にも4K対応受信機がかなり普及するものと期待されます。
民放各局は地上放送のデジタル化を成し遂げ、体力的には厳しい状況にありますので、4K/8K放送については、一層の推進のための予算措置を含め、国の果たすべき役割は大きいと考えております。民間放送としましても、新しい技術の流れ、視聴者のニーズ、事業性や採算性を踏まえつつ、日本の放送の将来像を見据えまして、関係者の皆さまと一緒に知恵を絞っていきたいと考えております。視聴者により良い番組を届けるため、民放の事情もご理解いただきますようお願いいたします。
ここまで「変化」ということで申しあげてきましたが、民間放送には、取材・報道の自由を確保していく努力や放送倫理の追求といった、放送事業の根幹に関わる、決して変わらない営みがあります。
昨年12月に国会で成立した特定秘密保護法が12月10日に施行されます。民放連をはじめ、各メディアが懸念を表明してきた法律です。知る権利と取材・報道の自由、そして表現の自由は、言うまでもなく民主主義を守る礎であります。会員各社におかれましては、取材・報道の自由に関わるその他の法制度の動きとともに、広く国民的関心と議論を喚起し続けていただきますよう、お願いいたします。
また、表現・報道の自由は無制限なものではなく、それを守るためには、私たち自身の努力が不可欠であります。普段から視聴者・聴取者の声やBPOの意見・提言に真摯に耳を傾け、日々の番組制作に活かしていただきたいと思います。放送の自由を守る必要があると胸を張って言えるように、公正・公平な番組をきちんと作っていただきますよう、会員各社の皆さまのご協力をお願いいたします。
この他にも変わらないものとして、受信料を財源とするNHKと、広告収入を主な財源とする民間放送が刺激を与えあいながら共存するという「放送の二元体制」があります。私は、NHKとは“緊張感のある仲良し”でありたいと思っています。それぞれがNHKらしさ、民放らしさを追求し、切磋琢磨することが、「二元体制」を維持し、将来に向けて日本の放送が国民・視聴者の期待に応えることにつながるのだと考えております。
さて、私は先月、フランス・カンヌで開催された「MIPCOM」に参加してまいりました。皆さまもよくご存知の放送コンテンツに関する国際的な大見本市です。ここでは民放各局もブースを設けてセールスを行っておられましたし、ここで開かれた「国際ドラマフェスティバルin TOKYO」主催のパーティーでは、日本のドラマやアニメ、フォーマットをPRいたしましたが、世界中のバイヤーをはじめ、コンテンツ関係者が多数集まり、高い関心を示してくれました。国も「クールジャパン」を旗印として、海外への日本文化のPRに力を入れておりますので、国の支援も得ながら、引き続き会員各社の放送コンテンツの海外展開を後押ししてまいりたいと考えております。
最後になりましたが、本大会の実現のためにご尽力いただいた髙橋民放大会委員長をはじめ、一丸となって大会の準備を進めてこられた各社の皆さまに、心から感謝を申しあげ、ご挨拶とさせていただきます。
平成26年11月5日
一般社団法人 日本民間放送連盟
会 長 井 上 弘