トピックス
第68回民間放送全国大会中止に伴う大久保会長あいさつ
日本民間放送連盟会長の大久保です。
今年の民放大会は、名古屋で10年ぶりに開催する予定でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ観点から、やむなく中止といたしました。民放大会は年に一度、民放連の会員社ならびに、私どもの事業に日頃ご協力をいただいている関係者のみなさまに、会長としてごあいさつをする場でした。今年はこのようなかたちとなりましたが、一言ごあいさつを申し上げたいと思います。
初めに、一年前から準備を進めていただいた中京テレビ様はじめ関係者の皆様には、改めて感謝申し上げます。大変、残念ですが、会員各社の皆様にはご理解をお願い申し上げます。
新型コロナウイルスは、いまだに世界規模で感染の拡大が続き、私たち民間放送事業者も大きな影響を受けています。
深刻なのは、放送収入の激減です。民放連研究所の調査では、今年度の放送収入は、前年度に比べてテレビが17.6%、ラジオが18.6%のそれぞれ大幅な減少となる見通しです。来年度についても、ある程度、持ち直しはするものの、今年度に落ち込んだ分が元に戻ることは難しい、と予測されています。
感染拡大の防止と経済活動の回復。この両立を実現する施策を、政府や自治体に、改めて強く要望したいと思います。同時に、私たちも単に景気回復を待つだけでなく、自ら積極的に行動しなければなりません。
いま為すべきことの一つは、広告媒体としての放送の価値を高めること。そして、スポンサーの皆さんに放送広告の価値を再認識してもらい、インターネットにシフトしつつある広告の流れを放送に回帰させることだと思います。これは「コロナ前」からの課題でもあります。
今年8月に民放連研究所が「テレビの広告効果に関する研究」の調査結果を公表しました。それによると、テレビの広告は、商品やサービスを知らせる「認知」の効果はもちろん、「興味や関心を持つ」とか「印象に残る」、あるいは「欲しいと思うきっかけになる」といった点でも、インターネット広告に比べて、高い評価を得ていることが明らかになりました。要するに、テレビの媒体価値はインターネットを大幅に上回っている、ということです。
こうした説得力あるデータを使って、広告主の皆さんの理解を得ていく。そして、広告業界と連携しながら、これまで以上に、放送広告の価値を上げていく。そうした活動に取り組んでいかなければなりません。民放連としても、会員各社への情報提供に力を入れていきますので、皆様のご支援とご協力をお願いいたします。
ラジオも素晴らしい媒体価値を持っています。ワイドFMの普及、SNSと連動した番組など新しいリスナーを増やすための種をまき続ける一方、設立10周年を迎えたラジコは今年、民放連加盟の地上波ラジオ全99局が参加しました。放送と通信の融合時代に、民放連はラジオの魅力と広告媒体としての特長をさらに伝えていく工夫を検討し、具体化していきます。
民放各社は、報道・情報番組の中で、連日、感染予防の徹底を呼びかける放送を続けています。いくつかの地域では、休校中の小中学生を対象にした学習支援番組を放送しました。また、売り上げが激減した飲食店の支援キャンペーンを行うなど、社会貢献活動に積極的に取り組んだ事例もありました。
ラジオは家で過ごす時間が増えたリスナーに「寄り添うメディア」として、本領を発揮しています。
コロナウイルスの感染者やその家族、そして医療従事者らに対する差別や偏見をなくすことも、メディアの大きな責任です。民放連と新聞協会は、医学研究者や臨床の専門家らの要請を受けて、「新型コロナウイルス感染症の差別・偏見問題に関する共同声明」を公表し、シンポジウムを開催しました。その中で示された見解や考え方などは、その後の報道や情報番組に活かされています。
こうした民放各社の情報は、国民の高い評価を得ています。読売新聞の世論調査によると、新型コロナウイルスに関する情報を得るうえで特に信用している情報源のトップは、民放テレビのニュースでした。
また、この調査では、インターネット上の情報について、「誤った情報やデマが広がっている」とか、「不安を煽るような情報が多い」といった回答が目立ちました。
事実と異なる情報や、差別・偏見、中傷といった、他人を傷つける無責任な情報を、インターネットは、いとも簡単に拡散してしまいます。こうした危うい情報空間の現実を、今回のコロナ危機は改めて浮き彫りにしました。そのことが、また、民放の存在意義を多くの人に再認識してもらうきっかけになったのではないかと考えます。
国民の知る権利にこたえて、正確で信頼される情報を伝える。それによって健全な世論形成と健全な民主主義の発展を支えていく。そうした放送の社会的責任と公共的役割を、コロナ危機を機に、もう一度しっかりと確認し、実行していただくよう、会員各社の皆さまに改めてお願いいたします。
現在の民放連の活動を簡単に説明します。二年前に「放送の未来は自ら描く」との考えのもと、「放送の価値向上・未来像に関する施策」を決定し、それぞれの専門委員会で具体化してきました。そして今年6月、新たな体制がスタートしたのを機に、第二期の「民放連施策」を決定しました。この「施策」は、会員各社の連携と協調を通じて、コロナの感染拡大やメディア環境の変化がもたらしている困難な状況を、民放事業者が自ら克服していくための方向性を見いだすことを目指したものです。
取り組む課題は、第一に「放送に対する国民・視聴者の信頼の確保」、第二に「放送・通信融合への対応」、第三に「放送広告の価値向上」、第四に「放送コンテンツの海外展開」、第五に「ラジオの将来」、最後に「放送事業運営の効率化・適正化」―の6本柱、合計33項目です。
これに関連して、放送コンテンツの海外展開を加速させるため、組織改革を行い、新たに「コンテンツ海外展開委員会」を設置しました。
コロナ問題で活動が制約される状況下にも関わらず、こうした民放連の施策について、各委員会の皆さまには熱心にご検討いただいており、心より感謝申し上げます。
NHKについては、現在、総務省の有識者会議などで受信料制度等に関する論議が展開されています。日本の放送文化を形成してきた民放とNHKによる「放送の二元体制」は、今後も維持し、発展させていく必要があると考えます。
また、若い世代には「テレビ離れ」の傾向が拡大していると言われます。これを食い止めるためには、民放とNHK双方の工夫と努力が必要です。そうした観点から、私たちはNHK改革の行方に注目しています。NHKには、「業務のあり方」「ガバナンスのあり方」「受信料制度のあり方」に関する「三位一体改革」の全体像を早急に示して、国民に受け入れられる提案をすることを期待しています。
当初の予定では、明日11月11日が第68回民放大会の開催日でした。会員各社の皆さまと直接、お会いできないのは誠に残念ですが、この厳しい状況にも、いずれ出口が見えてくることと思います。
「コロナ後」を見据え、変化を恐れず、すばやく、的確に行動して、この困難な状況を乗り越えていきたいと思います。皆さまのご支援とご協力をお願いします。そして、加盟各社の成長と発展を祈念して、ごあいさつといたします。
お時間をいただき、ありがとうございました。
2020年11月10日
一般社団法人 日本民間放送連盟
会 長 大久保 好 男